其処から見える世界はの続きになります。




















「今日は、さ。…………命日、なんだ……」





三六五日ある日の、今日という日だけは。

きっと、慣れる事なんて無いのかも知れない。


「早く終わってくれ」と、普段信じもしない、存在して居るとは微塵にも思わない神様とやらにすがってしまう自分が嫌いだ。



言葉にするだけで、嫌が応にも認識してしまう。





誰の、とは言わずとも、きっとコイツは解る。

目の前の碧が、少しだけ浮いて。

それと同時に、自分を見詰める表情。



コイツは、今何を思ってそんな顔をして居るんだろう。

驚いた様な、不意を突かれた様な、悲しんだ様な。



多分、全部だ……



目の前のコイツには、こんな自分を見せたくは無かった。

だって、コイツは人の痛みには敏感過ぎるから。



だって。



「…そう、なんだ……」



そんな表情にさせたい訳じゃ無いのに。


コイツは、何時だって人の為にその綺麗な顔を歪ませてしまうから。





「…いつか本物の空に出逢えた時に、な。飛ばそうと思ってたんだ」



俺自身、もう限界だったのかも知れない。



「この模様…よく着てた着物に似てるんだ」



何時も瞼の裏を過るのは、水色を基調とした和服と優しい笑顔。


「『本物の空に出逢えた』……そう伝えたかった……だから……」



大好きだった、母親。



「………そっか」



隣から聞こえたのは、間違い無くランカの声なのに。



優しく、形が崩れてしまわない様に。

紙飛行機を撫でてみれば、あの日と同じ様に、母さんが傍に居てくれている様な気がして。



色調が良く似ているこの和紙なら。きっと。



「この紙飛行機なら、きっと届く、と…思って……な……」



堪らずに、ランカに背を向けた。





俺自身、もう限界だったのかも知れない。


指先がチリチリと震えて。声は渇れたように途切れ途切れで。




視界がぼやけるのを、止める事が出来ない。







「……ありがとう、アルトくん」



暫くの間、グリフィスパークには沈黙が流れていた。

聞こえるのは、弱々しく吹いている風の音だけ。

その僅かな時間でも、どうやら落ち着きを取り戻す事が出来たらしい。



その沈黙を破ったのは、後ろに居るランカで。



「話すの、すっごい辛かったよね……話しちゃうと、嫌でもその事を受け止めなきゃいけないから」



ゆっくり振り返ると、伏し目がちに言葉を紡ぐランカ。



「でもね…?きっと大丈夫だよ」

「……え?」

「ちゃんと見ていてくれてるよ。どんな時でも、どんな場所でも」



そう言ってランカは、ゆっくりとその細い指先を俺の目の端に添えた。



「……ちゃんと届くよ。アルトくんの気持ち」



情けない、と思った。女の子に涙を拭われる、なんて。

それでも、目の前の少女の言葉はスッと胸に馴染んでいく。



その優しい笑顔が余りにも似ているから、次々と涙が溢れた。





そうだ。俺は怖かったんだ。



大好きだった母親が、もうこの世界には居ない事が。

現実主義の俺が、死後の人間を想い、自分勝手な解釈とエゴで現実逃避しようとして居る事が。



俺の気持ちが、届かないかも知れない事が。



悲しくて。泣きたくて。

でも、「演じる俺」がそれを許さなくて。



「本当の自分」が解らなくなって、この日は何時もどうしたら良いのか答えが見つけられずに居た。



「ホラ、早く飛ばそう?お母さん待ってると思うよ?」

「……あぁ」



何でだろうな?こんなにもモヤモヤしてた気持ちが、ふと軽くなっていく。



きっと俺は、誰かの後押しが欲しかったんだ。

自分一人じゃ何も見つけられなくて。答えを出せなくて。



でも、そんな俺を彼女が導いてくれた。



鼻を啜って、瞼を左手で拭って。



ランカのお陰で、ようやく迷っていた右手から紙飛行機を放した。





暁の空に、ゆっくりと漂うように流れて行く、俺の気持ち。









風が優しく吹いて、雲が流れて。





五年目のこの日、ようやく答えを見つけ出せた気がした。












 
貴女に届いていますか?
(母さん、此処が「俺」が生きて居る世界だよ)










-懺悔-
で、結局何を伝えたいの?っていう(汗)
何?ミシェルが生きている?
気にしな〜い気づかな〜い気のせい/(^p^)\




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