短編

□ドジから始まる恋
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私の学力より一段高い高校が行きたくて仕方なくて、必死になって勉強した。
そしてその努力が実ったのか、無事第一志望の高校に合格。
私の数字が書かれてあるのを見つけたときの嬉しさは今でも覚えている。
憧れの制服を着て憧れの高校に行く道のりはとても楽しいものだった。
通学路には私以外誰もいなくて、春の程良い暖かさにスキップをしていた。

「うきゃッ!!」

しかし小さな桜の小枝につまずいて派手に転けてしまった。

「いったぁ…。」

膝を見てみればツーと赤い血が垂れていた。

(初日から転けるなんて何て運がないの…。)

「オイ。」

「はい?」

擦り向けて可哀想な膝を呆然と眺めていれば頭上から声がした。
私はその声に反応して顔を上げる。
そこには白髪頭のところどころシワがよったスーツを着た男が。

「大丈夫か?……ププッ。」

「…笑うなら笑ってください。笑われるなら隠されるよりは、思いっきり笑ってもらったほうがまだマシですから。」

確実に見られていた。
恥ずかしい。
恥ずかし過ぎる。

(あぁ、穴があったら入りたい。)

「じゃっ遠慮なく。アハハハハ!!」

(私がいいって言ったんだけど。…笑い過ぎでしょ。)

白髪の男はそれはそれは笑いまくった。
私の存在忘れてるんじゃないの?ってほどに。

「…ヒー…ヒー…。」

(笑い過ぎてヒーヒー言ってるし。)

「あー。こんなに笑ったの久しぶりだわ。」

「私もこんなに笑われたのは久しぶりです。」

「久しぶりってことは前にもあったってことか?」

「うッ!」

「図星ってとこか。」

確かに前にもある。
中学3年の修学旅行のとき、さっきのように浮かれていて、溝にハマってしまったのだ。
そのとき周りにいた人は勿論のこと、その話を聞いた人も白髪の人以上に大笑い。
修学旅行から帰って来てからも私を見て笑う人もいた。

(あれは今まで生きてきた15年間で1番恥ずかしかったなぁ…。)

思い出してまた恥ずかくなり、顔の温度が上昇していく。

「おまえその制服、銀魂高校の生徒か?」

「はい。」

「今日入学式だろ?急がねーと遅刻じゃねーの?」

白髪の男は自身が身に着けていた腕時計を私に見せた。
その時計は8時25分を指している。
入学式は8時30分からでここからは全力で走らないと間に合わない。

「あわわわわ。」

いきなりのことに私はテンパって頭が真っ白になる。

「ほら。」

「へ?」

白髪の男は私の前にしゃがみ込み、こちらに背中を向けていた。

「その足で走れんのか?乗れ。」

再び膝を見てみればさっきよりも血が流れていて、痛々しい。

「で、で、でも!!」

「早く!!」

白髪の男は口調を強くして言い、それにビビった私は反射的に背中に乗ってしまった。

「行くぞ。」

男は勢い良く走り出した。





* * *


白髪の男の足は思ったよりも速くて、あっという間に学校に到着。
きっと私が走ったよりも速く着いたと思う。
白髪の男は体育館の前まで送ってくれると、男は早く行くように急かした。
だからまだテンパっていた私はお礼を言い忘れて男と別れてしまった。
それに気づいたのは入学式が終わってから。

(しまったなぁ…。もうきっと一生会わないだろうし。)

後ろ髪を引かれる思いで私は教室に入り席に着く。

(もしもう一度、会えたなら…)

今度はちゃんと忘れずに、

(『ありがとう』って言おう。)




そして5秒後、私は白髪の男と再びこの教室で再会することになる。



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