No title
□炎帝の帰還
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ウェールズへと再出発を果たした私たちの先導を切るパーシヴァルはため息を一つ吐く。
「やれやれ…お前達の頑固さにはほとほと呆れるな」
「…ふふっ、団長様も大概だけどパーシィもね」
この発言にパーシィがジト目で私を見つめてくる様を見て、私とルリアちゃんは顔を見合わせて笑う。一方のグランは少し照れたように頭を掻いた。
ビィちゃんはパーシヴァルの発言が気になったらしく、耳と尻尾をピンと立たせて怒り心頭といった様子だ。
「ちぇーっ!そんなにオイラ達を家族に紹介したくなかったのかよ?」
「それは違うわ」
「断じてそういう事ではない」
落ち着いた口調で否定の言葉を紡ぐと、ルリアちゃんに理由を尋ねられる。
「長く旅を続けてきた俺と名前なら、窮地に陥ろうが大概の事はなんとでもなる…それに両国の情勢の読めぬ今、ぞろぞろとお前達を連れ歩くのは危険だと判断した」
「グランやルリアちゃんにビィちゃんたち騎空団のみんなが心配だったのよ…」
私が申し訳なさそうに言うと、グランたちはホッと肩の力を抜いて安堵の表情を見せる。
「そういう理由があるんだったら、ちゃんと説明してくれても良かったのに」
腕組みしたビィちゃんとグランが少し不貞腐れたように言うと、パーシィも何かに気付かされたようで素直に謝罪の言葉を述べる。
「説明不足だったのは俺の非だ…悪かった。…どうやら兄上の一件で、俺も余裕が無かったようだ」
「…私もパーシィの気持ちを尊重しすぎたところがあったわ。ちゃんとみんなに話していたら、こんなことになっていなかったと思う…ごめんなさい」
みんなの顔を見るのが怖くて、体の前で組んだ手に視線を落とす。そんな私の手を優しく包み込んでくれた掌の先には、グランの屈託のない笑顔が浮かんでいた。その表情だけで今の私には十分だった。
私が感謝の気持ちも込めてグランに微笑むと、彼は顔を赤らめてパッと手を離してしまった。
少し寂しいと思っていると、ダンッ!と地面を蹴る音がして、グランが足を庇うように蹲っていた。その隣でフンッとざまぁみろと言いたげな表情をしたパーシィが仁王立ちしていた。
「ちょ、ちょっと、パーシィ!グランになんてことするの!?」
「……ふん、その程度で音をあげるなら捨て置いて先に進むぞ」
「もう!!グラン大丈夫?」
「…なんとか……」
痛みがひいてきたグランが立ち上がると、ルリアちゃんが話題を変えるようにアグロヴァルお兄様について尋ねる。
「…兄上は、誰からも尊敬されるに値する高潔な人格者だ」
「記憶の中のお兄様はいつも優しかった…。だからこそ今、何をお考えなのかをお兄様の口から直接聞きたい」
私たちの強い意志に触発されたグラン達は、笑って頷いた。
「確かに……話してみるのが一番かもな!」
温かい会話の中、突然パーシィが鋭い一声をあげる。彼が見つめる先を倣って見通すと麓の村から黒煙が幾つも上がっている。
焦ったように私たちは山をくだり、麓の村まで急いだのだった。