ナギの部屋

□★長編★〜Fate〜(ナギの過去のお話)
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山賊による襲撃から数時間後…



今回の襲撃も成功に終わった為、山賊達は奪い取った物資を根城に持ち込んでいた。

数時間前の喧騒とは打って変わり、
静かな山には夜の帳が下りていた。夏といえども少し肌寒く、夜空には星が美しく輝いている。



山賊達が根城にしているのは、使われなくなった古い鉱山の洞窟。


松明が明々と燃やされ、中では男達がガヤガヤと奪い取った物資の品定めをしていた。


「おっ、酒があるぞ!こいつは上物だ!」
仲間の一人が酒瓶を片手に興奮気味に言った。

「あいつら軍人の癖にいいもん呑みやがって…」

「まっ、そんな良い酒でも奪っちまえばこっちのもんよ!ヒャハハ」
仲間達が顔を合わせて下品な笑い声を上げた。



「ナギがいれば向かう所敵無しだな。」
仲間が粗末な木のベッドに寝転ぶナギの方に向かって声を掛けた。

「だけどよ、おい、ナギ。テメェ…また今回一人も殺ってなかっただろ」
少し不機嫌そうに仲間の一人がナギに冷たい一瞥を向けた。

ナギはベッドに寝転んだまま、目も開けずに答えた。
「俺は掟を守っただけだ。」

先代の頭、ナギの育ての親が決めた掟。
無益な殺しはしない
女、子供は襲ってはならない
仲間を裏切る事は許さない…
先代の頭は仁義を重んじる好漢であった。

数ヶ月前、先代の頭が出掛けたのを最後に戻らなくなり、新しい頭に変わってからというもの、一味は無法者のゴロツキの集団に変わってしまったのである。


「ケッ、掟なんかクソ食らえ。今じゃテメェ位しかそんなもん守ってねぇよ。この前襲った貴族の女も逃がしやがって…。」
と言って仲間が唾を吐き捨てる。


「そうだそうだ、おかげで久々に女を抱けると思ったのによ。とんだ甘ちゃんだぜ。」
残念そうに仲間が呟いた。


「うるせーな…俺がどうしようと勝手だろ。テメェらみたいに下品な奴と一緒にすんな。」
ナギは面倒臭さそうにベッドから起き上がった。

「あ゙ぁ?!」

「何?!テメェ…何だその口の聞き方は!」

頭に血が上った2、3人の仲間が座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、木の椅子がガタガタと音を立てて倒れた。

ナギは何も言わず、ただ冷たく鋭い一瞥を向ける。

「な、なんだよ。。やんのか?!」
静かな殺気を感じた仲間の背中に寒気が走る。
強がってはいるが、仲間の声はさっきと違い、明らかに力無く聞こえた。

皆がナギを、ナギの力を恐れているのは明らかであった。


山賊の中で最年少であるナギではあるが、その天才的な戦闘センスは仲間の誰よりも上であり、特に鎖鎌を持たせれば自分達に勝ち目が無い事を皆知っているのからである。
ナギの強さと元々の無愛想な性格さとが相まって、ナギを煙たく思う仲間は多かった。


数秒の睨み合いの後、
ナギは仲間から目線を外すと、立ち上がり、外に向けて歩きだした。


残された仲間はその場に立ち尽くしながら、怒りに身体を震わせていた。

(ナギのクソ野郎…!ちょっとばかり腕が立つからって調子に乗ってやがる…いつか見てろよ!!)


仲間達が一度はナギに対し思ったであろう、その感情が、後の悲劇を生み出す事、今のナギはまだ…知らない。
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