ナギの部屋

□★長編★〜Fate〜(ナギの過去のお話)
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ナギは仲間のいた部屋から出ると、洞窟の出口に向かった。
どこかの部屋では誰かが酒盛りをしているらしく、陽気な歌声が聞こえる。
(ヘタクソ。山猿の方がよっぽどいい声だな…)

そんな声を聞いていたらなんだか無性に外の風に当たりたい気持ちが強まる。
出口に近づくと、
流れ込む外の涼しい風が音を立ててナギの髪をふわりと揺らした。

出口から外が見える。

晴れた夜空には満天の星。鎌のような三日月が空を照らし、麓の町の明かりが下の方で小さくキラキラと光っていた。


「なんだ?交代の時間か?」

だるそうに入口に立つ見張り番がナギを見つけると声をかけた。

ナギは無言のまま首を横に振った。

すたすたと男の横を通り過ぎるナギに、
「おい、どこに行くんだよ。まさか麓にお楽しみに行くのか?」
と、見張り番が
ヒヒヒッ…とが黄色い歯を剥き出しにして下品に笑った。


今日は久しぶりに物資が手に入り懐の潤った山賊達は、麓の町の娼館に行く仲間も多かった。


ナギも一度仲間に何事も経験が大事だ!と、半ば無理矢理に連れて行かれた事はあった。


しかし、娼館の中に入るやいなや鼻を刺すキツイ香水の匂いや、コテコテの化粧をし、ビラビラの衣装に身を包んで媚びを売る娼婦達に囲まれて気分が悪くなり、何もせず帰って来た事がある。
それ以来行くのを拒んでいる。

元々華やかな場所は好きじゃないし、まだ女というものがイマイチわからなかった。


「別に、ただの散歩。」
男の質問に対し、振り返らずナギは答えた。

「そーかい、おぼっちゃんはお忙しいようで…。」

からかうような口調の男を相手にもせずナギは歩き出す。

風の音
木々の揺れる音
虫の声しか聞こえない。


心地好い時間。


しばらく出歩いて、
五月蝿い仲間達が寝静まってから、そっと寝床に帰るつもりだった。



その時に、ふと仲間達が今度襲撃の計画に予定している、麓を取り仕切る領主の館の事を思い出した。



仲間が寝静まるまでは、まだかなり時間がある。


暇つぶしに、今度襲撃される哀れなターゲットの館でも拝んでおくかと、ただなんとなく歩き始めた。
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