novel

□対峙と接近
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対峙と接近


歌舞伎町界隈は平日の昼間だというのに、人の往来が途絶えない。
土方は久し振りの非番だというのに何もする事が無く、ただ人ごみの中を流れに任せて歩いている。
服装はラフな黒の着流し。
仕事が生甲斐の土方にとって暇な時間ほど苦痛なことは無い。

いつもなら歌舞伎町をフラついていると銀髪野郎がちょっかいを出してくるのだが、今日は影も形も見えない。
期待をしている訳では無いのだが、どうもいつもと違うと調子が狂う。
そう言えば、近頃様子がおかしいのである。
いつもならゴキブリ取りの粘着シートのようにしつこく纏わりついてくるのだが、ここ数日は顔すら出してこない。
久し振りに顔を合わせたと思ったら、すぐに目を逸らしてしまう。
しかし行動は人恋しいかのように体を摺り寄せてくる。
前々から不思議な男だが、更に輪をかけて理解しづらくなってゆく。

土方は歩きながら知らず知らずの内に、眉間に皺を寄せて迷想していた。



そんな土方の姿を銀時は屋根の上から見つめていた。
正確に言うと、とび職のアルバイト中である。
今も心の中は土方に会いたくて堪らないのだが、頭の中でそれを阻止する。
まるで呪縛されたように。
数日前にあった、高杉とのやり取りが未だに脳裏から離れようとせず、銀時の行動を邪魔する。



一方土方は元々人ごみが苦手な為、いつの間にやら人の流れに酔い初めていた。

人ごみを掻き分け、大通りから抜け出した。
雑居ビルの壁に背をもたらせ、一呼吸代わりにタバコに火をつけ一服する。
吐き出した煙はゆらりと空に立ち上り、空気と混ざり合い消えてゆく。
その様子を無心にじっと見つめていると、フッと道の先から人の気配が動くのを感じ取った。
肩口越しに振り返るが、人の姿は見えない。

気のせいかと向き直り、再びタバコに口をつけるが眉間に皺が寄る。
また気配が動いた。
土方はタバコを地面に捨て、足で火を消した。
職業柄上、いつ何時命を狙われても可笑しくないのだが、背後の気配からは殺気を感じない。

意を決した土方は振り返り、気配を感じた大通りとは反対方向へ足を進めた。
あたりはビルが立ち並び昼間だというのに薄暗く、ひんやりと涼しい。
二人並んでは通る事の出来ない細い道が、迷路のように入り組んで続く。




いつからか、頭の片隅で警告音が鳴り響いている。




だいぶ奥まで進んでしまい、人の姿も気配も見当たらなくなった。
次の角を曲がったら引き返そう。と思った次の瞬間、背後から強い力で引き寄せられ、頭が浮遊感を感じた時には体は壁に叩き付けられていた。

「うっ」

不意打ちの痛さに思わず声が漏れる。
土方の両手首は壁に押し付けられ、思うように身動きが取れなくなっていた。
眼前には見覚えのある顔に眼を見開いた。
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