novel

□迷想と快爽
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迷想と快爽


坂田銀時は今日も緊迫した財政難の為、臨時とび職のあるバイト中である。
二階建て日本家屋の屋根の上で、棟梁の指示通りにただひたすら手を動かしている。
手元は着々と作業をこなしているのに、心はここに在らず。と言った顔つき。




土方が高杉にとられる…




その言葉だけが頭の中で何度もループする。
先日の高杉とのやり取りが脳裏から離れようとせず、銀時を不安にさせる。
本気になった高杉が、強引に土方を引っ掻き回すのは眼に見えているし、それの影響を真に受けてしまう土方の姿がありありと眼に浮かぶ。

土方とは出会ってからまだ日が浅い方だし、お互いを良く理解しているとは言い切れない。
ましてや、土方は自分の事をどう思っているのかも良くわからないでいる。
俺だけが舞い上がって好きだ好きだと言っているだけであって、土方からは一言も返事が返ってこない。
本当は既に、高杉に靡いているのだろうか。


なら自分はピエロじゃないか。


疑心暗鬼に囚われている自分が情けない。
しかし、不安にならざるを得ない状況だと言う事だけは、確かではある事には変わりは無い。


銀時はふと手を休め凝った体を伸ばし、眼下に広がる人で溢れ返った歌舞伎町の大通りが眼に入る。
すると無意識に土方を探してしまう。
人ごみの中をさらりと見渡すと、すぐに土方を見つける事が出来た。
季節は真夏とは言わないがそれなりに汗をかく暑い時期だというのに、土方は暑っ苦しそうな真っ黒な着流しを着ていた。
土方らしい服装に、銀時の口元が緩む。

銀時は土方を呼び止めようと大きく口を開いたが、大きく開けたまま言葉は出てこなかった。

土方から離れること2、3m後に、眼帯をした男が後を付けていた。
全身の血流が逆流してしまいそうな感覚に襲われる。
高杉は明らかに意思を持って後を付けている様で、土方に気付かれないよう、気配を消している。
まるで獲物を狙っている蛇のようだ。
その事に全く気付く気配の無い土方に、銀時は大声でその事を伝えたかった。
だけど言葉が出てこない。




「お前は指咥えて見てろ」




高杉の言葉が呪縛するように、銀時の動きを封じる。
そうこうしている内に、二人の姿が人ごみに消えてゆく…
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