novel

□鋭利な視線と破片
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鋭利な視線と破片


何時も何を考えてんだがよく分からない沖田総悟だが、今日ほど分からないと思ったことは無い。


土方十四郎は思いのほか仕事がスムーズに終わり、久し振りに巡回に回ろうと屯所の玄関に足を運ばせると、ずぶ濡れの沖田が玄関口に佇んでいた。

「おい、どうしたんだ沖田。びしょ濡れじゃねぇか」

土方はすぐさまバスタオルを風呂場から持ってきて沖田の頭に掛けてやる。
そのまま沖田の自室から着替えの洋服一式を手にし、温かい飲み物とともに沖田に手渡した。
甲斐甲斐しい程に世話をしてくれる土方の姿は、今も昔も変わらない優しさを持っていて、沖田の心に染込んで来る。
土方は沖田を可愛がり、沖田は土方を慕っている。
傍から見るとまるで兄弟のような関係が沖田にとっては自慢でもあり、誰にも邪魔されたくない存在だった。
そんな純粋無垢な感情は、年を重ねる毎に歪曲し擦れ違ってゆく。
自分を弟の様に思って可愛がってくれる土方だけでは、物足りなくなっていた。
いや、違う。
自分自体の心も体も代わって行ったのだと思う。

もっと自分を見て欲しい!
もっと自分を構って欲しい!

この気持ちはなんだろう…



沖田は一度閉じていた瞼をゆっくりと上げ、心配そうに自分の顔を覗き込む土方の顔に視線を向けた。
土方の格好はこれから外出するようであった。

「土方さんはこれから出かけるんですかぃ」
「あぁ、気晴らしに巡回に行こうかと思ってな」
「旦那だったら、会わない方がいいですぜ」

予想もしていない沖田の言葉に、土方はギョッと目を丸くした。

「何でそこで銀髪が出てくるんだ」
「旦那、隠し子がいるらしいですよ。旦那そっくりの」
「隠し子!?」
沖田は土方の驚く顔を目を細め、面白そうに眺める。
「さっき、餓鬼連れて散歩してましたぜ」

「そ、そうか…」

動揺しきった土方の視線の焦点は何処とも結ばず、ただ脱ぎ捨てられた沖田の濡れた隊服の方向を向いていた。

「だから、行くのを止めなせぇ」
あんな男の所なんて。
旦那はあんたを幸せになんて出来ませんぜ。
「銀髪に会いに行く訳でじゃねぇ、何言ってんだお前は」

土方は脱ぎ捨ててある沖田の隊服を拾い上げ、風呂場の洗濯物置き場に放り投げ、黒の革靴に足を入れる。
沖田は少し冷えたカップを持ちながら、玄関で土方が巡回に行くのを突っ立て見ていた。
土方の背中は直ぐに沖田の視界から消える。





沖田は手にあったカップを思いっきり玄関の床に叩き付ける。
 
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