novel

□卑怯な奴
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卑怯な奴


日はとっぷりと暮れ、辺りは鈴虫の鳴き声が聞こえてくる。
真撰組副長の土方十四郎は、屯所の自室の机でただひたすら筆を走らせていた。
今日は屯所内は静かで落ち着いている。
何時もなら近藤やその他の隊士達が酒を飲みながらドンちゃん騒ぎをし、近隣の住民から苦情の電話が掛かってくる。
そんな馬鹿みたいな声を聞くのが仕事中の土方にとっては楽しい時であるのだが。

「ふぅ…」

土方は何度目か分からない溜息を漏らす。






今頃近藤さんは、キャバクラでお妙という志村の姉の下へ遊びに行っているのだろう…






すると突然、廊下から山崎の声が聞こえてきた。
「副長、お電話です」
受け取った電話からは、中年の柄の悪い男の声が聞こえてくる。
「お宅の局長さんがウチの店で倒れましてねぇ、引き取りに来てくれませんか?」
キャバクラのオーナーらしき男は面倒くさそうに用件だけ述べると、さっさと電話を切ってしまった。
切れた電話の受話器を見つめていると、なんだか胸がズキズキと痛むのが分かる。
「山崎、車を出してくれ」
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