novel

□陽気なハワイアン
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陽気なハワイアン


武装警察・真選組はどんなに過酷な状況下に置かれようと、任務を遂行しなくてはならない為、今日の様な炎天下の中でも巡回は怠らない。


当然、真選組副長の土方十四郎はギラギラに照り付ける太陽の下、一人で歌舞伎町付近の巡回を行っていた。
ジャケットを肩に担ぎ、白いYシャツの袖を二の腕までたくし上げているが、一向に涼しくはならない。
それもその筈、時刻は正午を回った頃で、街中は日陰一つ作らない地獄地帯。涼しいはずの風も南から吹く生暖かい風。

何時しか一緒に巡回に回っていた筈の沖田は、姿を消してしまっていた。

ただ一人、律儀に仕事をこなしている土方であったが、黒髪に黒いチョッキに黒のパンツ、極め付けの黒の革靴ときたものだから、極度の暑さに頭が朦朧としてきていた。
自慢ではないが、体温調節が上手くない土方は夏の暑い日も冬の寒い日も苦手で、直ぐに体調を崩してしまう。
既に土方の視界は天と地がシャッフルし始めており、咥えている煙草からは一切味を感じていない。

「やべぇ…どっかで、休まねぇと…」

フラ付く足元は無意識に何時も来馴れている「万事屋銀ちゃん」の所に向かっていた。
ぶっちゃけ万事屋にクーラーで冷やされた涼しい部屋があるとは思えないし、冷えた麦茶がでてくる訳でもないが、体を休めるぐらいはできるだろう。
土方は鉛の様に重たい足を持ち上げて、万事屋の玄関までなんとか辿り着いた。
呼び鈴を鳴らすまでの力も無く、無言のまま玄関の戸を開け中へ上がりこむと、居間の方から微かに波の音が耳を掠める。

「…銀時…」

何とか振り絞って出した声は小さく掠れ、波音に消えかかってしまった。
「あれ、多串君…。て、どうしたの!?顔が真っ青」
土方には銀時の声が届かぬまま、目の前が真っ暗に落ちていった。




頬に感じる微かな心地良い風…
何処からか小波が聞こえてくる…
まるで南の島のバカンスの一時の様な…




重い瞼を持ち上げると銀髪の男が忙しくダンボールを傾けている。
自分はと言うとちょっと小汚いソファーに横になっていた。

「あ、気分大丈夫?」
「なにしんだ?」
「ん?あぁ。熱いからさぁちょっとでも涼しい気分になりたいじゃん」

銀時が持っていたのは小豆の入った段ボール箱。
辺りを見回せば壊れかけた扇風機がフル活動し、銀時はアロハシャツに短パンといった格好。
テーブルには冷や水にカラフルなストローとちょっと萎れたオレンジのカットが刺さっている。


ここはまるで「万事屋風ハワイ」


そんな銀時に土方はニッコリ微笑む。
そのまま土方は体を楽にし、再び瞼を下ろす。

「銀時…傍に居て…」



何時も優しい銀時に、甘えてしまう。
暖かく包み込んでくれる存在に、頼ってしまう。



「いいよ、ゆっくり休みな」




 
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