銀魂夢小説(短編)

□マイ ラヴァー キャット!
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「にゃあ、」

チリン、と可愛らしい鈴の音と共に柔らかな鳴き声が障子の外からかかる。
徹夜明けでの書類作成を終えたばかりの土方は、その声に妙な安堵感を感じた。
点けたばかりの煙草を灰皿に揉み消し、立ち上がって障子を開けた。

「早起きだな、いのり」

「にゃあぅ」

足元にちょこんと鎮座していたのは、真選組に飼われている仔猫のいのり。
三毛の模様も鮮やかに、走り回る姿を見れば誰の心も癒される。
彼女は謂わば真選組の癒やし。

「もう飯の時間か…」

片手にも収まる体躯を抱き上げ、厨房へと足を運ぶ。
煮干しを数匹与えてやれば、ご機嫌そうにそれを頬張る。

「急いで食うなよ、喉に詰まる」

食事を終えれば縁側で二度寝。
時々そこに沖田が混じっているのだが、案の定土方に怒鳴り起こされ仕事場に渋々戻っていく。

「ふにゃ、」

二度寝三度寝を繰り返した後は山崎の元へ。
ミントン中の彼の近くでシャトルと戯れている。
シャトルの羽で遊ぶのがいのりは好きだった。

「おーいいのりー。散歩に行きやすぜぃ」

夕暮れで辺りも朱く染まった時刻には、決まって沖田がいのりを散歩と称して独占する。
沖田の肩に乗って町を散策することはもう日課になっている。

屯所に戻る頃には、もう既に日は沈み、景色は闇が覆い尽くしていた。
どうやらいのりを探し回っていたらしい土方は、沖田からいのりを引ったくり自室へと戻る。

「あのなぁ、いのり。総悟について行くなとは言わねぇが、出掛ける前には俺に一度声をかけろ」

伝わらない筈なのに説教。
胡座をかいた土方を見上げ、お父さん宜しく説教を続ける彼に首を傾げるいのり。

「っ……」

その純真無垢な表情に土方も言葉が詰まる。
ガシガシと頭を掻いて説教を打ち切りにした。
此処の者達は皆、いのりには頭が上がらないのだ。

「にゃぅ」

その胡座の間に入り、いのりは身体を丸める。
彼の傍が一番心安らぐ時間でもあるから。
眠気に欠伸をしたいのりを、土方は瞳を細め、小さな体躯を撫でてやる。
喉を鳴らしながら眠りの体勢に入る彼女を見つめる土方は、とても穏やかな表情をしていた。


((これが、日常))

(いのりー、散歩行きやすぜぃ)
(にゃう、)
(ん?どこに行くんでぃ、)

(にゃー)
(どうしたいのり。…遊びに行くのか?なら早く帰れよ)
(にゃあう)


いのりは何処かへ行く際は、必ず土方に一声かけていくようになったそうだ。
 

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