銀魂夢小説(短編)

□原因は貴方なんです。
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「いのり」

穏やかな声が、彼女の名を呼ぶ。
庭で花を摘んでいた少女がその声に振り向き、彼の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄っていった。

「これを、松陽先生に」

「私にですか。とても綺麗ですね」

名も知らぬ、しかし色鮮やかな花々を彼に渡すと、彼は口元を緩め大事そうにそれを受け取ってくれた。
そして、

「ありがとう、いのり」

彼の腹部にも届かない程低い位置にある彼女の頭を優しく撫でた。
いのりがはにかむ。

「私もいのりに、美味しい茶菓を持ってきたんですよ。彼方の縁側で食べましょう。…銀時達には、内緒ですよ」

最後の茶目っ気のある言葉に、いのりが笑う。

彼は良き師であった。
村塾の皆が彼を慕い、彼を好きでいた。
あの無愛想な高杉だってまた然り。

「先生は、ずっと此処にいてくれますか?」

桜餅を頬張りながらの問いかけに、彼は少しだけ顔を伏せる。
いのりの口元に付いた餡をとってやりながら、一片の曇りもない空を仰いだ後に彼女の方を向く。

「それは私にもわかりません。ですが私は、貴女達と共にありたいと思っていますよ」

幼い彼女には、松陽が何故そのような儚げな表情をしているのかわからなかった。

「いのりはいつも、晋助といますね」

「晋助といるの、楽しいです。晋助のこと、信じてます」

軽鴨の親子宜しく常に一緒にいる2人。
そんな2人をいつも、松陽は微笑みを浮かべて見守っていた。

「では、いのり。私と約束しましょう」

「約束…?」

「貴女の大切な人を、決して裏切ってはならない。約束出来ますか?」

小指を差し出してきた彼に、いのりは即座に返答した。

「はい!」

いのりの小さな小指が、彼の小指と絡まる。
桜の花が風に舞う。
穏やかな昼下がりの出来事であった。



((今も尚繋がった、あの約束))

(この約束を果たしていることが、)
(貴方に繋がる唯一の方法)

(松陽先生、)
(貴方は私の、最も誇る師です)
 

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