s.short-story
□とある日のリハーサル
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鬼「さっそく明日からリハーサルだ。みんな風丸の女装(ver.和服)を見たくはないか?」
風以外『みた――――い!!!』
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リハーサルを始めてすぐのある日。
――放課後の教室。
俺はクラスメイトの歓声の中にいた。鬼道が練習用にと用意した桃色の小袖を着て…。
鬼「似合っているぞ風丸」
そんなこと言われても俺、全然嬉しくないぞ鬼道。
俺を囲んでいるみんなの視線がいつもと違い、なんというか…熱い気がして正直恐ろしい。なのに背中には冷たい悪寒が走る。
先日の学活で決まったこととはいえ、どうしてこうなったのか…。
人前に出ないのであればメイドの方が良かったのかもしれないという錯覚に陥ってしまうほど俺は気分を害していた。
風「あぁもう!!これが練習用だと…?ってことは本番はもっと派手になるのか!?」
鬼「それはお前のやる気次第だ」
鬼道は一言俺にそう言うと腕を組んで口角を上げた。
どういう意味だ…?俺がやる気を見せれば衣装はこのまま…なのか?
俺は期待を胸に訊ねる。
風「それはつまり、俺が頑張れば…?」
そして俺の質問に鬼道は表情を変えることなく一言。
鬼「衣装が豪華になっていく!!!」
そう返事した。
頑張れば衣装の要望に応じるとかじゃないのかよ!!
俺は肩を落とし、ため息をついた。
分かってた…分かってたことじゃないか。こんなことで鬼道が衣装を変えてくれるわけがないって…。
なんで期待しちゃったんだろう俺、その分よけいに悔しいってのに。
風「ずいぶんと理不尽だな…。だいたいなぜ俺でないといけないんだ?」
鬼「それが俺とあいつの約束だからだ」
ん…『あいつ』?それって誰なんだ?
気にはなってもそれを聞く以前に衣装のことで精神的に大ダメージを負っていた俺は下を向いた頭をあげることが出来なくて…。
軽くやけくそになって叫んだ。
風「…もうどうでもいい。それよりも1つここにいる男子全員に聞きたいことがある!!」
俺の言葉にクラスの男子が声を止める。
風「お前らは俺が女装していることに同情はないのか!?」
顔をさげたまま力をこめて俺は訊ねた。
ざわざわとその場にいた男子が口を開いて…
男子「そ、それは少し…『内申はいらないんだな?』……もないぞ!!!!」
…後半から否定の言葉を力強く叫び返した。
鬼道ぉぉぉぉぉ!!!!!!
せっかくお前が昨日俺にやったように上手く丸めこもうと思ったのに!!
風「裏切り者っ!!誰も俺に同情すらしてくれないんだなっ!!」
だったら俺はこんな劇…。頑張るものかっ!!
俺はイライラしながら自分の席に座り、むすっとひじをついた。
すると不意打ちのように…。
豪「まぁ、そんなにむくれるな」
左肩に手を置かれ、右耳にぼそりと息がかかった。
風「わぁあぁぁぁっ!!?」
驚いた俺は背中を逸らせて椅子ごと床に落下した。
ガタンという音がそう広くはない教室に大きく響く。そして俺は床に強く腰を打ちつけた。
風「いって…」
立ち上がるつもりだったのに、思った以上に動きづらいその服は俺が立ち上がることを拒んだのだった。
豪「すまな……ぃ」
風「…いや、別にいいさ」
顔を上げて見ると、声をかけた張本人の豪炎寺が顔を真っ赤にしながら転んだ俺を見下ろしていた。
というか…。
風「…? なんでそんなに顔が赤いんだ?」
気になったことを俺が聞くと。
鬼「自分の姿をよく確認してみろ」
横から鬼道が静かに俺に伝えた。言われた通りに確認してみる。
――
落下した勢いで解けた着物の帯。
二次被害でいやらしくずり落ちた衿。
草履を履くために靴下を脱いだ足が太ももまで露出…。
――
それを意識した瞬間。2年の校舎に俺の悲鳴が響き渡った。