s.short-story
□夢から覚めるまで
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会いたい、会いたいと思うたびにつらくなるのは会えないからで。
突き動かされるように探してみるけれど、どこにもいない。
どうしようもなく泣いてしまって
それでも必死に声を出す。
いつか届くんじゃないだろうか…。
せめて希望だけは失わないでおこう、あの人が帰ってくるまで。
初夏の日差しが肌を刺す昼下がりに、うだる男子高校生の集団が点滅を始めた信号を渡っていく。
幽谷博之は、自身がアルバイトをしている花屋のウィンドウから彼らの手に握られたアイスキャンディを羨ましく眺め、溜めた息を吐いた。
空は本当に真っ青で都会的な曇りのない快晴だった。
まるで夢のような現実味のない今を生きていて、嬉しいことがあるから喜ぶし悲しいことがあるから泣く。
当たり前のことだけど、つまらない人生だと幽谷は眉を顰めた。
そんな条件反射な感情を持つのが嫌で、ひねくれている自分は誰かに好かれるわけもないと思っていた。
あれはいつの事だっただろうか…。
見知らぬ人と一緒に豪雨の中で泣く自分。
はっきり思い出せない、もしかしたら暑さにうなされた自分がみた夢なのかもしれない。
覚めてしまった今ではもう繰り返すことのできない過去だ。
ただあの時うまれて初めて、誰かに好きになってもらうという何とも言えない込み上げる感情を知ったことは変えようのない事実だ。
もしもう一度会えるなら、会いたい。