short-story

□大嫌いなお酒
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※大学生パロ
※未来捏造


俺はお酒は飲めてもあまり好きじゃない。誘いが来たらとりあえず行くものの結局烏龍茶しか飲まないで、チューハイのような甘味なものを勧められても断っていた。
そんな普段の行動が幸いしたのか、今日も大学で出会った親友たちは飲み会やコンパなどの話題を断る俺に何の疑問も抱かず承諾してくれた。

「今度の合コンは一緒に飲もうぜ?」

「あぁ、いつかね」

矛盾した返事を残して俺はその場を後にする。今日は久しぶりに君と会える日だから何一つ用事なんて入れられないんだ。


夜の街を歩き、居酒屋の鳥焼きの匂いやら酔っ払いのサラリーマンやらとすれ違いながら駅まで行くと電車に乗って移動し、自分が住んでいるアパートの部屋へと帰った。

何も考えずドアノブを回すとそれは既に開いていて、中からは俺の好きじゃないお酒の匂いが少しする。
靴を脱いですぐ目の前にある半開きの扉を開けると、そこにはミニ机にまだ飲んでいないチューハイの缶を何本か並べてこちらを見つめる青い髪の青年が座っていた。

「遅かったな、もう飲んじゃった」

「君が来るのが早いんだよ風丸くん」

鍵を渡していたから風丸くんがここへ出入りするのは自由だ、だけど何の連絡もなく直接来るなんて想像もしていなかった。

風丸くんは少し赤い頬を緩ませ「お前も飲むか?」と勧めてきた。

合鍵を渡して以来風丸くんは頻繁に来てくれていたが、最近はテストがあったり風丸くんの通う大学での付き合いがあったりでなかなか会えなかった。

俺は結構寂しかったんだけど、君はそうでもなさそうだね。

誘いを断り少し気だるさを感じていた俺がベッドに仰向けに寝転がると、風丸くんが(俺の知る範囲で)三つ目の缶を開ける音がした。

「風丸くんってそんなに酒豪だったっけ?」

俺がそう訊ねると、風丸くんはベッドに横になる俺の元へと近づいてきて。

「さぁ…あ、でも。よく大学のやつらにあちこち連れまわされてるから慣れたのかも」

たった今気づいたように納得した声を出した。そして…。

「お前も飲めばいいのに…こういうのって一人じゃ侘しいんだぞ」

二度目の誘いの言葉を口にした。

本当だったら迷わずに断っているところだが、ただでさえ久しぶりだというのにここまで可愛らしい声で頼まれたら…。

「…そんな風に言われたら俺も少しは飲まなきゃね」

俺は柔らかい布団の気持ちよさと疲れから瞼を閉じた状態で「俺にも一口頂戴」と風丸くんに手を伸ばす。

「分かった」


手に冷たい缶が手に触れて、タブを開けると俺はそれを少し口に含む…………そのつもりだった。



しかし実際に手に触れたのは温かい風丸くんの手で…その瞬間驚いた俺が目を開くのと風丸くんの唇が俺のそれに触れるのは同時の出来事だった。

つんつんと舌で催促されて口を少し開けると少し温かいお酒が口を、強いアルコールの匂いが鼻腔を擽る。
それを飲み下すと風丸くんは少し嬉しそうな表情で「ちゃんとぴったり一口だぞ」と俺の上に跨った。

俺が仰向けのまま見上げる状態になり、アルコールを含んだ熱い吐息が鼻にかかるのを感じていると。俺の顔を見つめる目が少し潤み。

「ずっと会えなくて寂しかった…だから今夜だけはずっとそばに居て。頼むよ…」

そう言って風丸くんは俺の胸に顔をうずめる。


あーあ…。だからお酒は嫌いなんだ。

「卑怯だよ風丸くん。そんなこと言われたら、俺自分が抑えられなくなっちゃう」


俺は風丸くんと体勢を逆転すると額に軽くキスを落とす。

「抑えなくていいさ、全部受け止める」

そしてわずかに残る理性が最後に聞いた言葉を合図に、俺は部屋の明かりを消したのだった。

END あとがき→
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