short-story
□泣いてもいいんだよ?
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知ってたんだ。半田がボクのこと友達としか思ってないこと…。
気づいてたんだ。半田が好きなのは、ボクなんかよりもずーっと長く一緒にいた円堂だってこと…。
最近半田の様子がちょっとおかしい。
周りに聞けば『そんなことない』って一蹴されることかもしれないけれど、僕には分かる。出会ってからずっとボクは半田ばっかり見てたから。
松「ねぇ半田、どうしたの?変な顔して」
半「失礼だなお前」
いつも通りに話しかけていつも通りに言い返される。そんな日常の一コマが嬉しく感じる。
松「ホントのことだよ、何?もしかして恋とかしちゃってるの?」
半「…!!」
ボクが冗談交じりに質問すると、半田は一歩後ずさり顔を赤く染めて黙り込んだ。
やっぱりね。
半田の様子がおかしくなり始めたのはちょうど一週間前。円堂が豪炎寺と付き合い始めたころからだ。
いつまで片思いでいられると思っていたんだろう…。それはボクにも言えることだけど、別に半田と恋人になりたいなんて思っちゃいない。
だってボクの本当の望みは、半田自身の幸せだから。
でも今、その幸せが指先でつついただけで壊れそうなくらい脆く亀裂が入っている。
一週間前、円堂のほうから豪炎寺に告白した。半田の思いに気がつかないまま…。
豪炎寺はその場でOKして、以来同じクラスの2人は朝から部活まで一緒。
そりゃぁ半田も傷つくよね。
松「相談乗るよ。実名出さなくてもいいからさ」
軽く話しかけると半田は驚いたようにボクを凝視した。
半「お前が?なんか変なもんでも食ったのか?」
失礼な…。あ、さっき同じこと言われたっけ。
松「ボクだってたまには役に立つよ、だまされたと思って吐いたら?」
すると半田はボクの言った『実名出さなくていい』に安心したのか、本当にゆっくりと話し始めた。
半「す、好きなやつが…いるんだ」
松「うんうん」
半「そいつがさ、一週間くらい前から同じクラスのやつとずっと一緒に居てさ…」
松「それで?」
半「付き合ってるのかな…って」
え・・・。
半田もしかして、円堂たちが付き合ってること知らないっていうの?
確かに部内でも知ってるやつはごくわずかだし、公にはなってない。周りは仲のいいサッカーコンビくらいにしか思っていないだろうから…。
でも、それってあんまりじゃ…。
松「…付き合ってるのか、半田は知らないの?」
半「あぁ…」
図星。…たぶんきっと、近いうちに半田は事実を知るだろう。
それって、結構残酷な現実だね。
松「そっか。じゃあ半田、告白とかまだしてないんだ」
半「え?」
ボクのバカ!!なんでこんな質問してるんだよ。今の状態で…悪いけど半田に望みなんて……。
半「する勇気がなかったんだ…。かっこわりぃ」
・・・・・・。
半田の言葉がなぜかボクの心に大きく突き刺さった。
松「かっこ悪くなんかないと思うけどな」
小さな声で呟く。
かっこ悪くなんかないよ、絶対。
半「告白…こういう時ってするべきなのか?マックス」
松「…っ!!」
突然半田がボクに質問してきた。
『ダメだよ、半田。告白なんかしたら…。傷つくのは他でもない君なんだから。』
そう言いたくても言葉がのどに引っかかって出てこない。
松「半田が…自分でいいと思う選択をすればいいよ」
半「なんだよそれ」
やっと抉り出せた言葉を半田は苦笑交じりに返事した。
まさか、こんな状況だなんて思ってもみなかった…慰めるつもりだったのに。
松「なんでもない、忘れてよ」
半「分かったよ。ありがとな」
松「どうも」
ボクが返事を返すと半田は立ち上がり、部室を出て行った。
残されたボクはただ放心状態でその後姿が見えなくなるまで動かなかった。
なんかゴメン半田。ボクよけいなお世話だったみたい…。
次の日の放課後――――半田は部活を休んだ。
理由は聞かされていない、それに部活の様子も全く変わっていない。
これが半田の選んだ結果なんだね。ほとぼりが冷めるまで多分出てこないんだろうな…。
ボクはおせっかいも重々承知で半田の家へと向かった。
――――
半「何しに来たんだ?」
松「お見舞いだよ」
気だるそうに出迎えてくれた半田はボクを部屋へと上げてくれた。
松「なんだか…だるそうだね」
半「あぁ、少しの間何もやる気がでそうにない」
そう言って半田は下を向いた。
薄々気づいてたんだと思う…。円堂が自分に振り向くなんてありえない、告白したら傷つくって。
まるでどこかの誰かさんだ。
でも半田はそれなりの覚悟で、告白したんだね。
ボクは複雑な心境をあえて一片も出すことなく、むしろ笑って言った。
松「泣いてもいいんだよ?」
半「え…?」
松「泣いてもいいんだ…」
何の前ぶれもなく笑ってそう言うボクを半田は不思議そうに見つめる。
半「別に…泣くことなんかないっ…」
強がり。
松「半田、気づいてないと思うけど。目すごく赤いよ?」
その一言に半田は大きな反応を見せる。
松「ホントにバカだなぁ半田は…」
半「うるさいっ…」
目をこする半田の頭を隠すようにボクは抱きしめた。こうすれば…。
松「こうすればさ、誰も見えないから…」
半「・・・・・・・・・」
松「いやな事は泣いて忘れる…」
半田はその後しばらく黙っていたが、いつの間にか…小さな嗚咽を漏らしていた。
『泣いてもいいんだよ』
何もかも見透かしたような口調に反省しつつ、ボクはまぶたを閉じた。
きっとこれで良かったんだ。ボクは半田に色々と学んで、それで…。
ボクに何が出来るというんだろう?
もしかしたら答えのない疑問なのかもしれないけれど、1つだけ。これだけは絶対やりとおす。
ボクはずっと半田のこと好きでい続けるから。
嗚咽と困惑が交わる部屋の中でボクはただただ…。
それだけをずっと考えていたのだった。
END