short-story

□俺が大好きなお前のために
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ホワイトデーって言うのはバレンタイン以上に気を張っていないと身が持たない。

理由は簡単だ……俺がお返しをあげる立場だから。

2月14日に俺は自慢じゃないけど何人もの女子からチョコレートを受け取った。
どれも真心のこもった温かみのある手作りチョコで、食べるのが本当にもったいなかった。

けれど、一つ残念なのはその中に俺の本命がいなかったということ…。

当たり前なのは分かっている、だってバレンタインの大本命は女の子が好きな男の子にチョコをあげる日なのだから。
俺と同じ男のあいつにはそんなこと無理、それ以前にあいつは俺のことを好きかどうかも分からない。
なのに心のどこかで期待していたのはどうしてなんだろう…。

少し大きめの紙袋に、とりあえず市販の板チョコを湯煎して型に入れただけの簡単なチョコを人数分詰めて学校に持っていった。そして業務的な流れで一人ひとりに渡していく。
返した子の反応は様々で、嬉しいと笑う子もいれば、ありがとうと泣き出す子もいた。
正直その反応を見て俺自身も嬉しいと思った。でも、頭をよぎるのはやっぱりあいつの顔で…。

何で俺…一つ余分にチョコを作ったのだろう。とため息をついた。


部活が始まる時間になるとあいつが俺の席によって来る。それは今日の練習メニューだったり、昨日の面白くないバラエティのことだったりと日々違う話題だけど、俺はそれが一日で一番落ち着く時間だ。

一生懸命に話すそいつが目の前にいるのを意識すると熱くもないのに顔が赤くなり、ふいに机の中にそっとしまわれていた最後のチョコを思い出す。

これを渡したら、こいつはどんな顔をするんだろうか…そればかりが気になって仕方がない。

次の瞬間どうした?と聞かれ、自分がほんの数秒放心していたことに気がつく。

悪い…。と苦笑し俺は遠まわしにバレンタインデーの話を切り出した。お前はいくつ貰ったのかと…。

怖くて1度も聞けなかった2月14日の出来事を。

こいつもいっぱいチョコを受け取っていたんだろうな。お返しだってなんらかの形で返したんだろう…。と想像しながら。


しかし、そいつはただ一言「貰ってない」と返答した。

俺が驚いてなぜかと聞くと、本命からしか受け取りたくないとそいつは言った。さっきまでとは180度違う、笑みの無い表情で…。


放課後の教室はいつの間にか俺たち二人だけの空間となり、一層緊迫が俺の中を駆け回る。

本命がいたことにショックを受けた俺は、瞳を陰らせ俯いた。

そうか…。としか返事が出来ず俺は黙りこむ。

するとそいつはいきなり俯いた俺の顎をすくって顔を近づけてきた。
息のかかる距離に見える目とその奥で静かに光る瞳がしっかりと俺を捕らえている。

あまりにも近すぎて口も開けられない…。
そんな状態の俺を知ってか知らずか、そいつは不満そうな口調で話し始めた。

『俺は待ってたのにそいつ女子から貰うばかりで全然俺に話しかけてくれなかったんだよ…

今日だって貰った女子にだけチョコを返してさ…』

その言葉に冷や汗が首筋を伝う…。

俺が恐る恐るその相手を訊ねるとそいつは俺の怯え揺らぐ瞳に笑いかけ言った。

『お前だよ、風丸』

 
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