short-story

□その瞳に映るもの…
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 ―立向居視点―

俺の綱海さんとの繋がりはサッカーだけなのか?
こんなにも好きで 好きで 好きで…なのに俺は男だから。

学年も違う、生まれた場所も違う。綱海さんが卒業してしまったら、俺たちを繋ぎ止めるものは無いのだろうか?


部活を終えた下校中、鉛色の空がじっとりと俺を追うように迫ってくる。

なんて気分が悪いんだろう、何も前進できずに繰り返し過ぎてゆく日々。俺が同性愛者なんて言ったら綱海さんはどう思うだろう。
どうしたら手に入れることが出来るのだろう、その心を…。

立「ただいま…」

俺がこんな気分の日に都合よく出張に出かけた両親。もちろん俺が声を出そうが誰もいない家から返事など返ってくるわけがない。
それでも毎日の癖だからと帰宅の挨拶を済ませ、暗い家の中を真っ直ぐ風呂へと向かった。

早く流してしまいたかったんだ、汗もこの感情も…。


シャワーの蛇口を捻ると勢いよく冷水が体を打ち始めた。
冷たい…。でもこんな水よりも心が寂しくて凍えそうだから全然平気。

寂しい理由はちゃんと分かっている。それは今日の練習の時の出来事が原因だった。

立『綱海さん、今度上映される映画を見に行きませんか?』

綱『おおっ!!これ見たかったんだ。でも…俺とでいいのか?』

立『はい、一緒に見に行きましょうよ』

綱『あぁ分かった!!でもよ、こういうのって普通は女の子と見に行かないか?』

立『え…あぁ。そうかもしれませんね…』


――彼女が出来たらいいな立向居!それで一緒に行ってやったら喜ぶぜきっと…――


……そうですよね。俺は世間一般から見たら確かに普通ではないです。だから女の子と映画を見たりなんて考えたこともないですし。

ここで俺の行動を普通じゃないと思って『彼女が出来たら…』って話を切り出すのも自然なことだと思います。

でも、あなたにだけはそんな話俺にして欲しくない。
だって俺だけを見ていて欲しいから。その感情を、憤りを、もどかしさを…全てぶちまけてしまいたい。でも言えない、だから気づいて…。


いつの間にかシャワーの冷水が温水へと変わっていた。汗は流れてすっきりしているのに、心はまだ先ほどの曇天のように水を含んで溜まったままだった。
エゴなのは分かってる。分かっているからこそ苦しい。

明日こそは何とかなる。そう思うことしか今は出来ない。
…否、今になってもそれしか出来ない。でもそれならそれでいいと歯痒さをかみ締め、無理やり自分を納得させた。

立「大丈夫、明日こそは…きっと…」

呪文のように呟きながら特訓で少し疲れた自分の手のひらを何気なく見る。










……え。







立「ぅ…何これ…」


―――――――赤い。

何でっ…!!!

シャワーから流れるお湯が手のひらを流れている。なのにそれは赤くて生温かいそれに酷似していた。

立「わぁあぁぁぁっ」

飛びのいて手を払うとそれはビシャッと音を立てて前方に取り付けられた鏡へと跳ねた。
そしてその中に怯える自分の姿を確認すると赤い飛沫のせいで…まるで返り血を浴びたような自分を想像してしまう。

立「っ…!!! はぁっ…はぁっ…」

それと同時に浮かんだのは


つなみさん… !?

つなみさん つなみさん つなみさん…。 嫌だ…好きだからってそんなこと…。

脳裏をよぎったのは赤く染まる…―――。

涙だけじゃなく競りあがる気持ちの悪さに口を手で押さえてしゃがみ込んだ。

目を閉じて思考の全てを追い出す。



――――それからいくら時間が経ったのだろうか。

その後再び目を開けた時、幻は消え去り、お湯は無色だった。


――もし明日がダメなら…同じ日々をずっと繰り返す?
――手段くらい…いっぱいあるのに。

頭の中で何かが呟く…。
もう何も待てそうに無い…。期待も出来ない…。


あぁ、もう戻れない。


俺の中で何かが壊れる音がした。


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