short-story

□保健室
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「保健室ってなんだか官能的だね」

俺の上に跨り両手を押さえつける、神童がそう呟いた。

クラスメイトであると同時に、幼馴染でもある彼の聞き慣れたその声に意識を浮上させた俺は、うっすら目を開き、包帯で保護された頭を静かに動かす。

半ば覚醒しないまま自分を組み敷いている彼を見上げると途端に目眩が襲った。

――痛い。

混濁している記憶を抉り返して状況を確認する。
今日の最終授業は体育、内容はサッカーで。俺はあの時…あぁ、そうか思い出した。

「お前、わざとだろ」

意識が薄れる寸前、俺は神童からのパスを受けた。でもそれが当たった訳じゃない。
頭部…それもまともに受けたら危険な場所をめがけ勢いよく飛んできたボールを避けた俺は、バランスを崩して結局のところ頭を打ったんだ。

「霧野が自分で転んだんだよ」

悪びれも無く笑顔で答える神童の後ろで下校のチャイムが響く。よくよく見ると神童は制服姿だというのに、自分はまだ体操着にハーフパンツのままだ。

「どけろよ」

「いやだ」

押さえられた手を動かして抵抗すると、首筋に噛みつかれた。そして何度も場所を変えて痛くも無い甘噛みを繰り返す。

「養護教諭が来るぞ」

「来ないさ、今は職員会議中。だから俺がここに居るわけだし」

またもしれっと返し、行為を続ける神童に体をよじる。

「普通は生徒が気絶したら病院に搬送するんじゃないのか」

「霧野は覚えてないだろうけど、自分でここまで歩いてきたんだぞ」

一瞬嘘だろうと耳を疑ったが、そう言われればそのような気がする。強がらずにおとなしくぶっ倒れていればよかったと今更ながら後悔した。
それと同時に回復していく意識の中で、自分がこんな状況に置かれているにも関わらず、妙に落ち着いていることに気がつく。

何もかも訳が分からなくて滑稽にさえ思えたが、そろそろいい加減こんなことはやめて欲しい。
これが嘘や冗談じゃないことくらい俺には分かりきったことだから、尚更だ…。

「離れろよ」

僅かばかり先ほどよりも動く身体で神童を押し返すと、左肩に激痛が走った。

「いっ…?!」

視線を移動すると、神童が強く歯を立てた場所から鮮血が浮き出ているのが見えた。
それを舌で掬うように舐め、彼の顔が眼前に寄る。

「痛いか?霧野のその顔とても綺麗で素敵だよ」

俺の血であざといほど赤い唇と舌が囁く響きに、臍の辺りがざわつくのを感じた。
 
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