●story●

□着替人形
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「…っおにいさま…もう、やめましょう…?」







半ば泣きながら、懇願する優姫。



「優姫、次はこれ、」



泣きそうな瞳で、枢の言動によって顔を赤くしたり青くしたりする優姫は、そうすることが余計に枢を煽るのだということにまだ気付けない。



手渡されたのは、繊細なレースがあしらわれた、萌葱色の上品な雰囲気のワンピース。

可愛らしい洋服をプレゼントされて嬉しいのは、優姫も例外ではない。



だけど、これはさすがに…



このワンピースで、

…ええと、何着目?



次が最後だから、次が最後だから…を繰り返して数十回。








最初こそ、喜んで着て見せた。

おにいさま自ら私のために見立てたと聞いて、余計嬉しかった。

『巷では、女性服はこういうのが流行してるらしいよ』だって。



貰った服を着て、おにいさまの前に出ると、本当に嬉しそうに笑ってくれて。

そんなふうに笑ってくれるなら、おにいさまの手元にある5、6着くらい、喜んで着替えてみせてあげる。



と、思ったの。





なんかおかしい、と思ったのは、5回目の着替えの後、おにいさまの前に出て行った時。



「?…あの…」

「やっぱり思った通りだ。その色も優姫によく似合う」

その笑顔の前にはこの世のどんな美しいものも霞んでしまう、そう表現するのが一番合う。

そんな表情で見つめられ、自分にはもったいないような言葉を掛けられてしまうものだから、その度に顔が熱くなる。





「…あの、なんか、増えてません?」


誤魔化すように、直感的に、さっき感じた違和感について尋ねる。



いや、訊かなくてもわかってる。

確実に増えてる。

あなたが右手に持ってる布地のものは、さっきはなかったですよね?



「何が?」



クス…と笑って、わからない振りをするおにいさま。



さすがの私でも引き算くらいはできます。


そう口走りそうになって、微かに陰ったおにいさまの顔を見て、言葉を飲み込んだ。



大丈夫、言ってない。



ただでさえ忙しくて、心の休まる時のない日々を過ごしているおにいさまを、悲しませたくない。

ここは、気付かない振りをして、もう何着か着よう。











…そう思った、私が甘かったです。













その後も、着替えては出て行く度に増え続ける服。



いったいどこにこんなに隠していたの?










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