●story●
□着替人形
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「ただいま」
3日振りに、帰って来た。
両手を広げて、微笑むその目に移っているのは、ただひとり。
顔が熱くなるのを感じて少し躊躇ったけど、大きくて優しいその人の腕に体を預けた。
ここがただひとつ、私が幸せでいれる場所。
あなたも同じように思ってくれてたらいいななんて思って、私もあなたを抱きしめる。
「おかえりなさい…おにいさま」
学園を出て、暮らし始めた玖蘭の屋敷。
既に3ヶ月程経っているけど、未だに思い出した過去と突き付けられた現実が受け入れられなくて、ふわふわと、地に足が着いていない感覚でいる。
あれから一度も外に出ていない。
敏感になった感覚で、季節の移り変わりを感じてはいるけど、世間の様子はよくわからない。
最も、吸血鬼の"世間"なんて、"わからない"と言うより、"知らない"って言った方が正しい。
そんな私に情報を与えるのは、専らおにいさまの役目、らしい。
「今日は荷物が多いんですね…」
ふと、枢の背後にある、紙袋や綺麗な箱を見て呟く。
「ああ…これ?優姫におみやげ」
そう言われて目を輝かせ、既に"おみやげ"に釘付けの優姫の目に、優しく笑う枢の笑顔の中に潜んだ黒いものなど、映るはずがなかった。