●story●

□月夜に咲く
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「…見つけた」



よく晴れた夜、満天の星。

月は影に、完全に姿を隠している。

残酷な程、暗い夜だ。



「こんな所にいらしたとは…驚きましたよ」



僕が笑うと、"それ"は微かに声を上げて、小さく躯を震わせた。

できるだけ優しく笑ったつもりだったんだけれど…逆に怖がらせてしまったようだ。

でも、それでいい。





全ての元凶は、案外近くにあった。

灯台下暗し、とはよく言ったものだ。

彼女を苦しめ続ける、鎖の起点。



元々は優姫の両親の経営する企業の傘下にいた、彼等。

接点に気付くのが、遅すぎた。

根も葉もない、心無い噂を立てて彼らを闇に追いやった挙げ句、残酷な、そして余りにも計画的な結末。

事件の後、都合良くその場に現れ、優姫の未来を悉く奪った。

その首謀。



君たちが欲しかったのは、莫大な富と信頼を築き上げた彼らの会社?

…それとも、優姫?





僕の足下で訳の分からない事を喋っているが…違うだろう?

頭を下げる相手が、謝罪の言葉を言う相手が許しを請う相手が。

苦しんだのは、僕じゃない。

他でもない、あの小さな少女なのに。



大丈夫、僕は君達程悪い奴じゃない…

だから、あの子が味わったのと同じくらいの恐怖を。

同じくらいの孤独を、悲しみを、痛みを―――――――……

















君を取り戻した夜。



「やっと約束を果たせる…」



抱き締めた身体が震え、耳元に漏れた小さな息。

彼女は静かに涙を流した。



本当に静かに。




















「おかえりなさい」



扉を開ければ、暖かい部屋に、鼻腔を擽る料理の匂い。

蕾のような、君の笑顔。



「ただいま」



応えて髪を撫でれば、綻んで花が咲く。

白い肌に唇を落とせば、ふわりと色付く。

こんなに美しい花が、他にあるだろうか。

長い時を経て手にした幸福を、今度こそ。





これからは、僕が守るよ。

君を、君の大切なものを。



だから、君は僕の傍にて。

僕の傍で、咲いていて。






















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