○story○
□どこへ
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ずいぶん陽が長くなったなぁ。
巡る季節は繰り返すのに、あなたがいた日々は遠くなるばかり。
いつの間にか、木蓮の蕾が大きくなってる。
あなたと、待ちわびた花。
だけどふたりで見ることは叶わなかった。
私はあの日ひとり、風に吹かれてぼたぼたと落ちる花片を、ぼたぼたと涙を流しながら見ていたの。
春の強い風が、胸にぽっかり開いた穴を通り抜けて。
忘れることはない。
事有る毎に思い出す。
思い出してしまうの。
一緒に見ることができなかった木蓮の花が、もうすぐ咲く。
真っ白な花片は、綺麗なままのあなたとの記憶そのもの。
何もわからない私にも、ひとつだけ、わかることがある。
幻のような日々の中で唯ひとつ、確かな事。
あなたは私を本当に大切にしてくれた。
寂しい時には傍にいてくれた。
あなたがいればいつも嬉しくて、幸せで。
だけど私は想いを返せなかった。
あなたが消えてしまって、私は寂しさを振り払うように、思い出の詰まったその場所を去った。
今、あなたと過ごした場所から遠く離れて、寂しい街で見上げた空。
今日もまた、日が沈む。
白く輝く月は、決してあなたを見つけ出してはくれない。
拭い去れない悲しみに染まりきった私ばかりを、闇夜に眩しく映し出す。
ねぇ、また木蓮が咲くよ。
大切にしすぎて、伝えられなかった言葉があるの。
月よ、花よ、風よ、あの人に伝えて、
愛している、と。