○story○
□そのひとことがいえなくて
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ずっとずっと、だいすきだったの。
あなたはあたりまえのようにいつもそばにいて、わたしを喜ばせるのも悲しませるのも、いつもあなただった。
くらい夜道をあるくときの道標。
この瞳にはまぶしすぎる陽の光をさえぎる、ここちよい影。
なみだがこぼれる夜は、そっとだきしめてくれた。
だから。
―――だけど。
あなたの秘密ごとが悲しかった。
わたしのために血に手を染める、あなたが愛しかった。
あなたといっしょならわたしだって、堕ちてしまいたい、汚れてしまいたいと、
あなた以外はいらないと、思ったの。
ほんとうよ?
ちかすぎて、みえなかった。
大切にしすぎて、こわしてしまった。
あなたに言えなかったことがある。
口にしなくても、わかってくれると、思っていたの。
とんだうぬぼれ。
わたしはばかね。
あなたはわたしのことばを待っていたのに。
今空を漂う、行き場をなくした言葉がある。
今度こそ、全部受け取って。
あの夜から、涙が止まらないの。
あなたは知っているんでしょう?
ねぇ、今すぐ抱き締めて。