●story●

□Strain
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朦朧とした頭の中の何処かの扉を、誰かがそっと叩く。



微かな振動と柔らかい音に、沈みかかっていた意識が浮上する。

私は握り締めていたものを放さないように、強く掴むその指に更に力を加えた。

私の隣に座り優しく髪を撫でるその人の笑顔は、少しだけ困り顔。

わがままだと、わかっている。



「許して、優姫…」



頑なに首を横に振り続ける私。

あなたは繰り返す。

許して、と。



許すも何も、初めから怒ってなんかいない。

罪深いあなたと同じ位、私だって罪深い。

永く深い孤独をあなたに刻み付けて、自分だけを棚に上げるわけにはいかない。

同等代価だと、思っている。



「もうどこにも行かないから」



瞳に困惑の色を浮かべて、あなたはその言葉を幾度となく囁く。

わかっている。

あなたは私に嘘は吐かない。



それでも。

わかっていても、私は。



「ちゃんと眠らないと、体に障るよ…」



優しく撫でる手に、意識は再び沈んでいく。

襲いかかる安堵感の波。

それに、必死で抗った。



絶対に眠らない。
この手は決して離さない。

あなたのこと、信じてる。

眠った後もきっと隣にいて、手を繋いでいてくれるとわかっている。



だけど。



綺麗なように見せていただけの時は過ぎ去って、今あなたに見せる醜い私。

酷い我が儘、醜い執着。

それすら、あなたと私に同じ血が流れている証明だと思うと嬉しくて。



あなたが、くす…と静かに笑う。

歪んでしまった私を、表情に出さずとも密かに喜んでいる、やっぱりあなたも歪んでる。







あなたに、私という枷を、鎖を。

絡みつき纏わりつき重荷となっても、離れる事などもう二度と無いように。

























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