○story○
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雨が降り続く、春の日。
雲がどんよりと垂れ込め、誰もが憂鬱な気分になる。
―――もはや手に入らない物はない―――
世間ではそう噂されるほど成功し、権力も財産も地位も、その手中に収めた。
そんな彼でも、天気を意のままになどできるはずもなく。
彼を照らすは、唯一人。
愛した人の忘れ形見であり、家族と呼べる唯一の存在、
そして、何れはこの莫大な財産を継ぐ、後継者。
父の計画はまだ知らない幼き娘。
その笑顔はこの曇天でも変わらない。
それは太陽のように皆の心を照らす。
多忙を極める身を労る時間。
娘と過ごす時間。
彼にとって、本当に大切な。
ちょうど同じ時、屋敷の塀の外に、黒い影が蠢いた。
突然、どこからともなく響く銃声。
屋敷に鳴り渡る非常事態のベルの音。
屋敷の至る所に配置されたガードマンやボディーガードが、当主とその娘の部屋に駆け込む。
そこにあったのは、
くまのぬいぐるみを抱き締め、壁に凭れて震える少女と、
絨毯に散った赤―――
――――そして、倒れた当主の姿。