○story○
□だれのもの
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「おかえりなさい」
部屋の扉を開けたら、笑顔の君。
最近、なんだか綺麗になった?
以前とは違う、確実に。
答えは、その腕の中。
「お父さまが帰ってきたわよ」
視線は僕からすぐに逸らされて。
「今眠ったところ」
腕の中に大事に抱えたものに、慈しむような視線を向ける。
小さな小さなそれは、白い産着に包まれて、微かな寝息をたてていた。
そう、僕の愛する人の腕の中で。
――おかしいな、胸が苦しい。
「どうしたの?お父さま」
俯いて眉を顰めた僕を、君が覗き込む。
ひどく心配した表情で。
…そうか、胸が苦しい理由がわかったよ。
それは全部、君のせい。
「―――…じゃない」
「え?…あ」
僕は優姫の腕から眠っている小さなそれを取り上げて、揺り篭に横たえると、彼女の肩を抱いてソファーに向かう。
彼女をソファーに座らせて、その膝に頭を擡げた。
すると彼女は僕の髪をそっと梳く。
「どうしたんですか…?何か嫌なことでも?」
嫌なこと?
あったよ、ついさっき。
「僕は"お父さま"じゃないよ…、優姫」
君は目を瞬いて、頬を少し紅くして、
ふわりと微笑う。
「…枢」
そうだよ、呼んで、僕の名前を。
子が生まれ親という立場になっても、僕は。
君の前にはただの男。
君を愛して、愛してやまないひとりの男だ。
頬に手を添えると、自然に君の唇が落ちてきた。
"愛してる"の証明。
その唇を僕のそれで捕まえて、君の首に腕を絡ませたら、君はもう逃げられない。
深く深く、証明を刻む。
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