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□花のやうに
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「俺は、教育向きじゃないんだけどな」

「貴方にはこういったデスクワークもマニュアルを使っての指導より、どちらかと言えば実戦向き。そんな事百も承知ですよエリック・スリングビー」

ウィリアムが後ろから声をかける。いつも気配がしないが、今日も全く気配がしなかった。
そんなウィリアムに内心驚きながらもエリックはおくびにも出さずに口元だけで笑う。

「だったら何故、という笑いですね、エリック」

「聞かなくとも、あんたならわかるだろう」

「アラン・ハンフリーズ。筆記は優秀で満点、ですが実技は今一歩。素質としてはいいものを持っている、それが人事課の評価です」

「だろうな、俺とはまったく違う匂いがする」

育ちがいいと言うか、毛並みが良いと言うか。きっとお坊ちゃんなのだろう。

「長所を伸ばし、短所を補う、それが教育・そしてマネジメントというもの。実技に関してはあなたが適役だった、ただそれだけのことです」

まさかグレル・サトクリフに新入生の教育を任せるわけには行きませんからね、とブツブツ小さい声でウィリアムが追加する。



「はいはい、仕事だからな。仕方ない」

そう言って、背もたれに一度大きくもたれかかりその反動で立ち上がる。
そろそろ午前のガイダンスを終えて新入生が戻ってくる頃だ。
厄介なことは抱え込みたくない、ましてや一緒に昼食などまっぴら。
そう考えると一足先の昼食の為にエリックは部屋を出た。


(カツサンドは外せねえな)

協会と契約している食堂には彼らの健康を考
えた食事が定食と日替わりという形で提供される。
ただ、食堂の椅子にきっちり座って食事をするという習慣がいまだにつかない為、エリックはいつものようにカツサンドを購入し建物を出た。


4月、下界はまだ雪も融けきっていないのだろう。
此処、天界との狭間では季節など無いものだが、それらしい季節に設定されている。
外は肌寒く、だが頬に感じる日差しはあたたかい。


芽が膨らんだだけでまだ花も咲かない桜を眺めながら、一口カツサンドをほお張ろうとした瞬間。


「エリック先輩〜!」


大きな声で呼ばれた。
そう、教育を任されることになったアラン・ハンフリーズに・・。

「一緒に食べましょう。先輩」



嗚呼、この透明の瞳…。



ざああっと風が吹いて、ふたりの間を一瞬の嵐が過ぎた。


fin.

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