エリアラText

□花のやうに
1ページ/3ページ



桜の花芽が大きく膨らみ、春を告げる。
此処、人間の感覚で言うと生死の狭間にあたる場所にもそれは等しく・・。

今日はいつもは無機質な死神派遣協会の建物にも、賑やかな気配がした。


緩めたタイはそのままに出社すると、庶務課と天井からカードの提げられた手前に座る女性がちらりとそちらを見た。
エリックはそれを横目で流しながら階段を上がる。
上がってすぐの部屋、そこには同じようなスーツを着た何人かの死神――
新入生のようであった。


この部屋に入っていいのかどうか全員で考えあぐねているようで、邪魔な事この上ない。
「散れ、邪魔だ」
そう言ってエリックが背後から圧をかけると蜘蛛の子を散らしたかのようにわらわらと左右に分かれる。


扉を開ける瞬間に、目が合った。

特に意味はないのかもしれないが、目が合った死神は何故かまっすぐこちらを見ていた。


簡単なガイダンスを終えデスクをうろうろとまわり先輩社員の仕事ぶりを見せているようだ。
毎年の光景はそろそろ慣れたものであったが、先ほどの視線がどうしても気になった。
死神らしからぬ、透明な瞳。


これからどれだけのモノを見るのか、そしてどれだけ汚れていくのかを知っての瞳だろうか。
こんなきれいな瞳で堕ちていくとしたら・・


「地獄だな」

「どうしたのですか、先輩?」

その透明な瞳の持ち主がエリックの隣にいた。
思わず口に出していたようで、、何でもないと言葉を濁す。
毎年、なんだかんだと言って逃れていた教育担当上司という仕事がエリックにも回ってきた。

「名前」
「え?」
「お前の名前だよ、なんて名前だ?」

アランと名乗った青年とエリックはこうやって机を並べることになる。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ