long・(水+阿+巣)→栄
□I'll steal your heart. 3
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手に入れたと思った瞬間、腕の中からすり抜けていった。
強引に抱え込んでいれば、いつか愛されるときが来たんだろうか。
ただ優しいだけの存在でいれば、失わずにすんだんだろうか。
日だまりの猫のように気持ち良さそうに、俺の胸に額を擦りつけた君は、道に迷っただけだったのかもしれない――。
「栄口はダメだから」
部室でのミーティング後、帰りに図書館に寄らないかと栄口を誘ったら、本人が答えるより先に阿部に口出しされて内心ムッとした。
「二人で練習試合のデータをまとめるんだ」と阿部。
手伝いを申し出ると「副キャプの仕事だし、慣れてない奴に手順を説明してる時間が惜しい」と言われ、「遅くなるから、巣山は先に帰ったほうがいいぜ」ときた。
――ので、俺も同じ班の栄口と課題発表のための資料を探したいから待ってる、と言ってやった。
なにを張り合ってるんだろう、俺は。
栄口とはもう何度も唇を重ねている仲なのに。
阿部よりずっと栄口に近い存在になれたはずなのに。
困った顔をしてる栄口に、1組で待っていると告げると、小さく頷いて、「なるべく早く行くから。……ごめんな」と申し訳なさそうに言われた。
「別に栄口が悪いんじゃないから、謝らなくても」
(それとも、疚しいことでもあるのか?)
続けそうになった言葉を飲み込んで部室を後にした。
ケータイをいじって時間つぶして、それにも飽きて……、ぼんやりと教室の窓から夕陽を眺める。
ハワイのなんとかっていう火山が噴火して舞い上がった塵の影響で、最近の夕陽は普段より鮮やかに見えるのだと西広が言っていた。
(因みに日本人の好きな情景の第二位は日没らしい。西広は俺の知らないことをよく知っている)
尻のポケットに入れていたケータイが数秒震えて、メールの着信を知らせた。メールボックスを開くと栄口からだった。
“ごめん、遅くなって。今そっちに行くから”
それからしばらくして、息せききった栄口が現れた。
「ごめん!かなり待たせたよな」
重いエナメルを肩に、部室から教室まで必死に俺に会いに来てくれたんだ。
――大丈夫、俺はちゃんと好かれてる。
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