long・(水+阿+巣)→栄
□I'll steal your heart. 4
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春休み最後の日は雨だった。
雷とともに降りだした雨に栄口と二人、用具室に駆け込んだ。
外野にいた栄口はマウンドにいた俺と違い、頭から爪先までひどく濡れていた。
髪の水気を飛ばそうと栄口が頭を振ったら、湿った用具室の匂いに混じって甘い香りがした。
濡れて張り付いて服に透けた肌は、いやになまめいて見えた――。
時おり雷鳴が轟いて、雨は激しさをましていくばかりだった。
栄口は冷たい手をして寒さに震えてた。
濡れた服を着てたほうが体温を奪われるからと、半ば無理やり服を脱がした。
現れたのは日に焼けていない白い肌。
浮いた鎖骨が綺麗で、なんだか息が苦しくなった。
青くなっていく栄口の唇を見て、俺は用具室を出て行こうとした。
タオルか何か……暖めてやれるものを手に入れたくて。
そうしたら、行くなよとすがるように腕を取られて、潤んだ瞳に見つめられた。
俺は衝動のまま、頼りなげな肩を引き寄せて、華奢な体をぎゅっと胸に抱いた。
「好きだ」
掠れた呟きは雷鳴に消され、聞き返されることはなかったけど――。
「……阿部?雪山じゃないし、大丈夫だよ」
俺の腕の中で戸惑う栄口の声。
体を温めるために抱かれているとしか思ってない。
「いいからおとなしくしてろ」って言ったら「あったかいね」って小さな声が答えて、ふわっと笑った。
それで俺はいいと思ってた。
二度とこの腕に抱くことはなくても。
栄口の笑顔をずっと見ることができたら。
今朝、栄口の肌に残る、花びらのような紅い痕を見るまでは――。
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