treasure(捧げもの)


□Hand in hand
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弥生三月、春うらら。

くすくす笑いで目が覚めた。


(…寝ちまったのか……)


狭い教卓の下、三角座りのままゴシゴシと目を擦する。


工藤を鬼に、青木、山口、巣山、栄口、そして、俺――君島で絶賛かくれんぼ中である。

制限時間30分、南校舎内限定、最後まで見つからなかったヤツは鬼と見つかったヤツ全員からファミレスで好きなものを奢って貰える。

燃えるよな。

(因みに30分以内に鬼が全員を見つけたら鬼の勝ちで、全員からファミレスで……以下同文)


三学期もあと数日で終わり、というときにやるべきことかどうかはさておいて、ま、楽しければいいんじゃね?

巣山と栄口まで参加するとは思わなかったけど。

たまの部活のない放課後の有意義な過ごし方じゃないよな。


ケータイで時間を確かめると、残り時間はあと7分だった。


選択教室から卒業した3年生の教室に隠れ場所を移したのが良かったのか。

なんとか見つからずに逃げ切れそうだ。




ふぁあ、と欠伸をひとつ。

暖かいなぁ……。

もうすっかり春だねぇ。



――と、またくすくす笑いがした。


そろそと教卓から顔を覗かせ、声がしたほうに頭を巡らす。


教室の一番後ろ。


ふわっと、春風にめくれたカーテンの影に見慣れた坊主頭……と、その肩越しに見える(もはや1組の間ではワンセットだ)これまた見慣れた茶色の頭。


「寒くないか」


がらんとした教室に巣山の低い声がいつもより優しく響いて、


「ううん、風…気持ちいいよ」


目を細めて風を受ける栄口が、いつもより可愛く見えた。


かわいく――?

いやいや、しっかりしろ俺。

寝ぼけてんのか。


「そうか……。寒くなったら言えよ」

「うん」


窓際の壁にもたれた、二人の右の肩と左の肩はぴったりとくっついている。


(そんだけくっついてんのに、寒いわけないだろ)


俺は教卓に隠れたまま心の中でツッコミを入れた。

低い姿勢からよく見える、二人の緩く繋がれた手と手。

栄口の右手の指と巣山の左手の指は、睦み合うようにお互いの指に絡んでは離れ、離れては絡んでいた。

いっそガッツリ恋人繋ぎでもしてくれよ、と俺は思ったね。

この場にいたのが工藤でも同じことを思っただろう。

何故に指切りするかのごとく、小指と小指を絡ませあってるかは知らないが、二人を繋ぐ赤い糸なら、今さら見せつけてくれなくてもいいんだよ……。


「巣山、それ、くすぐったい」


甘く、微かに色めいたくすくす笑い。

栄口の細い手首を指先で撫でる巣山の顔は小憎らしいほど涼しげだ。


「さっきのお返し」

「さっきのって、これ……?」


空いている左手の甲の指先で、巣山の顎から頬を撫で上げる栄口。


「ん、くすぐったい」


そう答えた巣山はくすぐったいっていうより、気持ち良さげな顔して見えるのはのは俺の目が腐っているからなのか、青木。

そして、その巣山の横顔を、栄口のほうがよっぽどくすぐったそうな顔をして見ているのは何故なんだ。

委員長、冷静かつ的確に俺に説明してくれ。

俺もお前と一緒に美術室の暗幕の影に隠れれば良かったよ、山口。

暗闇で二人でもおまえほど安全なヤツはいないのにな。



光あふれる白いカーテンは二人のいちゃいちゃぶりを隠してはくれんのだよ。



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