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□君が大人になる前に 2
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ピンポーン♪
ピンポンピンポンピンポン♪
玄関チャイムが連打される。
誰だよ、ただでさえ俺は今機嫌が悪いってのに。
ピンポン♪ピンポン♪ピンポン♪
ダダダダダン!
ドアまで叩たかれて、あったまきた。
チェーンを外して、ドアを勢いよく開ける。
ゴンッと鈍い音がした。
「ったぁ〜っ」
ザマーみろと思って頭を抱えてしゃがみ込む人影を見下ろす。
暗がりにぼんやりと見える茶色の頭。
茶色……?
そう言えば、さっきの声も男にしては高かったような……。
まさか……っ
「ゆ、ゆーと先生!?」
「ひどいよ、水谷」
涙目で俺を見上げてきたのは、愛しい愛しい年上の恋人だった。
「ご、ごめんね。大丈夫?」
慌てて俺もゆーと先生の前にしゃがみこんだ。
「水谷のために一次会で飲み会抜けてきたのに……こんな歓迎されるなんて」
しかしながら、頭を撫でながら不満げに訴えるゆーと先生の息は、酒臭い。
というか、全身から酒とタバコの淀んだ匂いがする。
「飲んでるんだ?」
思わず眉をしかめた俺の襟にゆーと先生の手がかかった。
「飲んでるし、酔ってますよーだ!」
「く、苦し…っ、わ、分かったから」
俺はゆーと先生の腕を掴んで引っ張りあげて、玄関の中へ入れた。
ズルズルと引きずるように廊下を歩いてベッドルームのドアを開ける。
勝手知ったる他人のなんとやら、だ。
ペタンとベッドルームの床に座りこんだゆーと先生は頬を桃色に染めて、潤んだ目でぼーっと俺を見ている。
部活を引退してから、俺は月に一、二度、ゆーと先生の部屋に泊めてもらっていた。
苦手な古典を教わるというのは名目で、一緒に過ごす週末の時間で、俺はゆーと先生がどこをどんなふうに触られて、可愛がられるのが好きかを学習していた。
あ、ゆーと先生のために言っとくけど、"先生"って立場上、そーなることを高校卒業するまで拒んでいたのを強引に口説き落としたのは俺だから。
(ゆーと先生が感じやすい体をしてて良かったよ)
けど、古典の小テストの点が悪かったら絶対部屋にあげてくれないんだ。
人間って、邪な目的のためならヤル気が出るらしく(なんのヤる気だってーの)俺は上一段活用もラ行変挌活用も完璧にマスターして、ゆーと先生のベッドに潜り込んでいた。
長かったテスト期間も終わって、ゆーと先生の採点も終わって、明日から夏休みって日、さっそく「部屋に行ってもいい?」って聞いたら、「ごめん、今日は用事がある」って答え。
食い下がって聞けば、1学期終了の打ち上げがあるだとか。
……いいけどね、別に。教師だって人間なんだし。
夏休みで生徒から解放されて、嬉しいよね。
「いや、夏休みだって補習はあるし、研修とかいろいろあるんだよ」って、困ったように笑うゆーと先生をもっと困らせてやりたくて(だって、眉をハの字にするゆーと先生、かわいいんだもん)不貞腐れたふりをすると「しょうがないなぁ」って、部屋の鍵を渡された。
「一次会で抜けてくるから、9時前には帰れると思う。ーー今日はご飯、作ってあげられないよ?」
ベッドの上の時計を見ると、9時10分前。
うん、ゆーと先生は嘘をつかない。
けど、こんなに酔って帰るなんて聞いてないよ?
今までも、お酒飲んで、そんな色っぽい顔を他の人たちに見せてきたの?
そう思ったら、無性に腹が立って、ゆーと先生の華奢な体を押し倒していた。
ぐにゃんと無抵抗に床に横たわる体。
酒のせいで火照った体は、アノときと同じ体温で。
「ン、みずたに、重い……」
「どいて」、なんて言われて素直に言うこと聞くほど子どもじゃないよ。