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□誰だって大人になる
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あの人は俺より年上で、

大人で、

先生なのに、

ときどき、すっごく子どもっぽくて。



甘く整った顔をしてるのに

ふにゃんって、

頬を緩めて、目尻を下げて笑うと

すっごく可愛くて。



職員室で泉先生に

「お前は高校のときからヘタレのまんまだな!」

って、怒られて涙目になってるのを見たときは、

庇ってあげたいと本気で思った。



でも、やっぱりあの人は、

大人で、

先生で。



俺が先生のこと好きって

丸わかりでも、



ーー先生も……

俺のこと好きでも、



きっと、

絶対、



自分からは

「好き」

なんて言ってくれないんだ。



だったら、

俺が動くしかないよね。




放課後の化学準備室。

告白の言葉が宙に浮いてる。


「水谷先生が好きです」


真っ赤になって嬉しそうな顔したくせに。

俺も…って、声にならずに唇が動いたのを確かに見たのに。


「あ、あのね、栄口、…あの、それは…その……」


この期に及んで、なに誤魔化そうとしているの。


「先生のいくじなし……っ」


ばかっ。


心の中で叫んで無理やり唇を押しつけたら、ガチって前歯同士が当たって、「イタッ」って小さく悲鳴が上がって、カァーーッと頬に血が上った。


バカはどっちだよ。

キス一つ満足にできなくて。

大人の、

先生の、

恋人になりたいなんて。




「ご、ごめんなさい」


慌てて唇を離して謝ると、顔も見ないで回れ右して、駆け出した。

ドアノブに手をかけた瞬間、「ま、待って」って右手をハシッと掴まれて、振り向く間もなく、後ろから抱き締められた。






ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、って背中から伝わる先生の鼓動と熱い体温。

首を回して見上げると、至近距離に柔らかい栗色の瞳。


「水谷先生……?」


問いかけに答えてくれたのは、



優しくて、


温かい、


先生の唇だった。
 

 
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