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「阿部?水谷のケータイがどうかしたの?――そういえば、今日水谷からメール来てたけど……」


きょと、と俺を見る栄口の目には一点の曇りもなくて。


「水谷、どんなメールよこしたんだよ?」


――なんて探りを入れる自分が卑小に思えた。


「えっと、夏フェスのチケットがあるから一緒に行こうって…。一緒に行くはずだった彼女と別れちゃったみたいで」


いねぇよ、アイツに彼女なんて。


同じ大学とはいえ、キャンバスが違う栄口とはめったに会わないからって、適当なこと言いやがって。

水谷は遊び相手の女はいても、彼女は……恋人は作ったことがねぇんだよ、栄口。


「前に俺が行ってみたいなって言ったの覚えてたらしくて、誕生日プレゼント代わりにくれるって……」

ちらっと上目遣いで俺の見て「水谷、二日券買ってたみたいなんだけど」と続けた。


「……一泊するってことかよ」

「……う、ん」

「あの確信犯…っ」

「まぁまぁ、夏だし?彼女と高原で泊まりたかったんじゃないの。」


ダメだ…栄口はまったく水谷にそういう意味で好かれてる自覚がない。

この栄口の危機感のなさと水谷の今日までの(見せかけの)ヘタレっぷりが、俺を油断させていたんだ。


「高原て…どこで……いつあんだよ」

「えと、長野で…八月の最後の土日だったかな」


八月の最終週は毎年恒例の夏休みのイベント、『青少年のための科学の祭典』があって、ゼミの教授が実行委員長を務めているんで、俺は毎年裏方として参加していた。


くそっ。

ついていけねーじゃねーか。


「あンの計算高いタレ目のキツネ」

「阿部?なに突然自分のこと言い出してるの?」

「……」


いや、阿部はキツネじゃなくてタヌキか、と栄口はクスクス笑った。

人の心の動きには敏感で、感受性が鋭いくせに、自分のこととなるとどこかスコンと抜けている栄口。

それがもどかしくもあり、愛しい。


俺は腕の中の栄口を強く抱きしめた。


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