short・巣栄


□アクアリリーの君
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三時間目の休み時間、俺は栄口の席に近づいて声をかけた。


「栄口、俺のこと避けてない?」

「避けてないよ」


椅子に座って俺を見上げる栄口は笑顔を見せるけど……。


朝練の後、俺と話をするのはこれが初めてなのに?

(まぁ、朝練の後は部室で水谷と話し込んでたから、俺は先に教室に戻ったんだけど)

いつもは一緒に行く教室移動のときも先に行ってしまうし。

避けられていると感じるのは気のせいじゃないと思う。


「本当に避けてない?」

「ホントに避けてないよ」


いや、今だって軽く身を引いてないか?


「でも、やっぱり避けてるだろ?」


じっと目を見て重ねて聞くと、


「うっ、避けてる……」


首を竦めて、上目遣いで見てきた。


「俺、なんか気に障ることした?」


ぶんぶん、っておもいきり横に振られる首。


なにかが、ふわっと香ったような……。


「じゃぁ、なんで……」


俺の傍に来ないの、って言いかけて、さすがにそれは恥ずかしい台詞なんで飲み込んだ。

けど、本音は「もっと近くにいてほしい」だ。


「俺……その……」


言いにくそうにして視線を合わそうとしない。


「あの…、今日の俺……匂うから…」


返ってきたのは予想外の答え。


えぇと……。


「……そんなことないぞ。確かに今日は暑いし…俺も汗かいたけど……。いや、でも、ほんと……汗くさくなんてないし……」

「そうじゃなくて……」

「さかえぐち〜、古典のノート貸して」


いつの間にか現れた水谷が、俺と栄口の間に割って入ってきた。


「また〜?」って、言いながらノートを差し出す栄口の首筋に水谷は顔を寄せた。


おい、何してんだよ。


俺は水谷の首根っこを掴まえて、引き剥がしてやろうかと思ったけど、なんとか耐えた。


「んー、まだ香ってるね」


くん、と匂いを嗅いでにふにゃと笑う水谷。


「いい香り〜。朝よりまろやかになって、栄口にぴったり」

「水谷だって、同じ匂いだろ」

「違うよ〜。体臭があるから同じもの使っても同じ香りにはならないの。栄口のつけてるほうがいい香り」

「お前ら、なんの話ししてるんだ?」

話がよく分からない。


水谷によると、栄口のお姉さんが栄口に使うようにと買ってきたデオドラントスプレー(曰く、「運動部だからって、汗臭い男子は嫌われるよ」)が「めちゃいい匂い」で、朝練の後、水谷も借りたらしい。


「なんて名前の香りだったけ?」と尋ねる水谷に、


「アクアリリー。……姉ちゃん、自分の趣味で選ぶんだもん。無香料ので良かったのに」


口を尖らせて答える栄口は姉に逆らえない弟の顔してて、思わず頬の筋肉が緩む。


「えぇ〜、匂いなしなんてつまんないよ。俺も買おうかなぁ。容器もシルバーブルーでかっこいいし」

「……阿部に瓜くさいって言われた」


憮然と答える栄口。


「あー、俺にも言ってきたよ。瓜じゃないよね、メロンだよね。つけたての匂いは」

「俺もメロンっぽいて思ったけど……」


チラッと栄口が俺を見た。


「巣山、果物キライだろ」


だから、メロンの匂いなんてイヤかと思って、って申し訳なさそうに笑った。


それで近づいて来なかったのか……。


「今は微か〜に甘い、花の香りになってるよ〜」


くんって、また栄口の首筋に顔を寄せた水谷の肩を、今度こそ俺は掴んで後ろに引いた。


「水谷、もうチャイム鳴るぞ」

「あ、ホントだ。栄口、ノートありがとう。お昼、一緒に食べよーね!」


バタバタと騒々しく帰っていく水谷。

(しっかり昼の約束も取りつけていったな)


俺は水谷のしてたみたいに栄口の首筋に顔を寄せて匂いを嗅いだ。


「す、巣山…っ」


爽やかで、それでいて仄かに甘い香りがした。

さっき、香ったのはこの匂いだったのか……。


「俺も好きだぞ。この匂い」

「ホントに?」


うっすらと赤くなった栄口の顔が輝いた……気がした。


なんていうか、清潔感があって…しつこくない、やわらかい甘さは栄口にイメージにあってる。


「俺は果物はキライだけど、別にメロンの匂いが嫌いなわけじゃないぞ」

「そうなの?」

「ああ。メロンの匂い嗅いでも『メロンだ』って思うだけで、『嫌だな』とは思わない。それに、そんなにキツく香ってないし」

「良かった。水谷ってば、『背中は俺が振ってあげる』って大量に振ってくるんだもん。俺…みんなから瓜臭い奴って思われてたら、どうしようって…」


……阿部が栄口の匂いに文句つけたのは、栄口にかまう水谷が気にいらなかったからじゃないか。


「つけてすぐがどんな匂いか俺には分からないけど……、他の奴は何か言ってなかったのか?」

「えぇと、田島が『うまそうな匂い』って言って、三橋が『メロンだ!』って。泉は『海っぽい』って言ってたかな」


じゃあ、気にしないで使ったら、と言いかけて、さっきの水谷を思い出す。


あいつ、やたらと栄口に近づいて匂いを嗅いでた。自分も同じスプレーを買おうかとも言っていたし。


水谷と栄口が同じ香りを身に纏う?


……イヤだな、それは。


栄口に抱きつかんばかりにくっついて、匂いを嗅がれるのも御免だ。


俺が無香料の買うから、そのアクアリリーとかいうやつと交換しないか、と言ったらおかしいだろうか。


どうきりだそうかと考えていたら、栄口が恥ずかしそうに笑った。


「良かった…、巣山もこの匂い好きで。俺も……ホントはいい匂いだなって思ってたから」

「……」

「男が、花の匂いなんかさせてもしょうがないんだけどね……」


今度は少し淋しそうに笑ったその顔に、俺の心臓はきゅうっと締め付けられる。


「……ずっと傍でいてほしいような匂いで、俺はいいと思うよ」


赤く染まった栄口のうなじから、甘い香りが立ち昇って来たような気がした。



栄口がどんな匂いだろうと、俺は傍にいて欲しいけど……。




水辺のユリか……。




栄口が気にいってるなら、






水谷は、










俺と阿部とでなんとかしよう。









…………………………

うわぁ、ダメだぁ。久しぶりの巣栄だったのに〜。巣山がかっこよく書けないーっ。

話がオチないーっ。

デオドラントスプレーって、香水みたいに耳の後につけたりしないから、首筋から香るもんでもないだろうし。

いきなり阿部と紳士協定結ぼうとするし。

ツッコミどころ満載ですが、許してくださいm(__)m


このお話は、友達とその弟のエピソードを元にして書きました。(弟にこれ使えってデオドラントスプレー買ってくる姉)
別の友人はスプレーの減りが早いなと思っていたら、弟に使われていたらしいです。(フッレシュフローラルの香りなのに)


栄口くんは汗臭くなんかないけど!


夏になると私はボディショップのアクアリリーのオードトワレを使うので、お揃いにしてみました♪
 

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