short・巣栄


□欲しいものをあげるよ
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月に一度の朝の全校集会。

今日の校長の話はやたらと長いな、と思っていたら、出席番号順で俺の前に並んでいた栄口の背中がぐらりと揺れた。

とっさに両肩を支えると力なく俺の胸に寄りかかってきた。


「栄口、おい!」


呼び掛けにうっすらと目を開けたけが、真っ青な顔して目の下に隈ができてる。


「どうした?」


近寄ってきた担任に、貧血みたいです、と答える。


「保健室に連れて行きます」


栄口を支えてゆっくり歩きだす。

抱きかかえて行きたいところだけど、全校生徒の前じゃ栄口が嫌だろう。




体育館を出ると栄口はずるずるとしゃがみ込んでしまった。


「巣山、ごめ……」


苦しそうにしながら謝ってくる。


「……いいから。おぶってやろうか?」 


早く寝かせてやりたくて言ったけど、首を振って断られた。

どうしたらいいのか分からないまま「何か欲しいものある?」と聞いた。


「み、ず……」


ああ、冷たい水でも飲めば気分が良くなるかも知れないな。

俺は体育館横にある自販機に視線を投げて、…次の瞬間、自分の愚かさを思いしる。


「みず、たに……」


『水谷』……それが栄口の欲しいものなのか。

抱えた膝に頭を埋めた栄口を身下ろせば、首筋にシャツに隠しきれない赤紫のうっ血痕が見えた。


「……」


自分が何をすべきか分からなくなって立ちすくんでいると、「栄口」と聞き慣れた声がした。

振り向くと水谷が駆け寄ってくるところだった。


「みずたに……!」


なんて言ったらいいんだろう。

水谷を目にしたときの栄口の顔。

それこそ砂漠でオアシスを見つけた旅人はこんな顔をするんじゃないかって顔を、栄口はした。


「大丈夫?顔色悪いと思って見てたら倒れたから、ビックリしたよ」


見てたのか……7組から1組の栄口を、ずっと。

それで、追いかけて来たのか。


「ごめんな、栄口」


そして、お前が謝る理由があるのか。


「水谷ーー」


声をかけると、初めて俺の存在に気づいたみたいに水谷は俺を見た。

手は休まずに栄口の背中をさすっている。

血色が戻ってきた栄口の小さい顔を見て、ああしてやれば良かったのか、とぼんやりと思う。


……水谷じゃなきゃ駄目か……。


「栄口の不調はお前のせいなのか?昨日、お前ンちに栄口を泊るって言ってたよな」

「ちが……」

「そうだよ」


違う、と言おうとした栄口を遮って水谷が答えた。

いつものヘラヘラした顔とは違う、真剣な表情を浮かべてる。


「今日は部活も体育もないと思って、昨日の夜、無理させた。――集会のこと忘れてた」

「水谷!」


水谷のシャツを引っ張って黙らせようとしている栄口の指先が震えてる。


「じゃあ、水谷、お前の責任で栄口を保健室まで連れて行ってやれよ」


大丈夫だよ、栄口。

俺は栄口の欲しがるものを取り上げたりしないから。


「一緒にゲームしてたのか、テレビ観てたのか知らないけど、栄口に甘え過ぎんなよ、水谷」


ほっと息をついた栄口にゆっくり休むように言うと、体育館に戻る気にもなれず、俺は中庭に向かって歩き出した。





赤でも白でも、花が咲いていればいい。





………………………

花を愛でる男、巣山。

も、栄口くん専任の保健委員になっちゃいなさい。
 

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