short・巣栄


□Humming Bird
1ページ/1ページ

「今日機嫌いいんだな」


休み時間、栄口と二人で並んで黒板の文字を消す。隣で何やら鼻歌を歌う栄口に話しかけるとびっくりしたようにこっちを見た。


「へ、なんで?普通だよ」

「そっか。いや、鼻歌歌ってたから、なんかイイコトでもあったのかと思った」

「うそ。歌ってたの、俺?」


ああ、と頷くと「うわ、恥ずかし〜」と黒板消しを持っていない左手で頭を抱えた。


「鼻歌ぐらい、誰でも歌うだろ」

「う〜、そうだけど。昨日水谷に借りたCDのメロディがもうずっと頭から離れないンだよ」 

「はは、あるよなそうゆーのって。CMの曲とか」

「うん」


おーい、野球部、早くしないと次移動だぞーっと教室の後ろから呼ばれ、振り返ると、教室はほとんど空になっていた。

すぐ行くから、先行ってて、とヒラヒラと手を振って栄口が答える。

次の移動では7組の前を通るから、水谷はきっと首を長くして栄口を待っているだろう。

栄口が背伸びしても届かない黒板の上部に書かれた文字を手を伸ばして消すと、黒板消しを置いて、パンパンとチョークの粉のついた手を払う。


「拭けたな。行くか」

「うん。あ、俺ちょっと7組寄って、水谷にCD 返すわ」

「昼休みか、放課後でもいいんじゃないか。時間、あんまりないぞ」

「そんな時間かかんないし、巣山、待っててくれなくてもいいよ」


俺がいたら、邪魔?とは聞かずにおこう。

とりあえず7組まで一緒に歩く。

栄口は大事そうに胸にCD を抱えてニコニコしてる。


(やっぱ機嫌いいんじゃないか)


7組の前に差し掛かったところで、廊下側の教室の窓から、栗色のふわふわの頭が目に入った。


「さかえぐち〜」


ふにゃふにゃの笑顔と甘えた声で呼ばれて、「もう、水谷、恥ずかしいからおっきな声で呼ぶなよ」と文句を言いながら栄口はどこか嬉しそうだ。

「じゃ、俺先に行ってるから」と片手を上げると、栄口はパタパタと後も見ないで駆け出した。

遅れるなよ、と続けかけた言葉を飲み込んで、「ごゆっくり」と心の中で続ける。



♪らぶ、らぶ、らぶ、ずっきゅん



黒板消しを片手に小さな声で栄口が歌ってたメロディが、今度は俺の頭ン中で回り始めた。


(俺が歌ってもキモいだけだろ)




始業のチャイムより少し遅れて選択教室に入ってきた栄口の頬は淡く染まって、なんだかとても可愛くて、


「栄口、頬がゆるゆるになってっぞ」


つまんでやった頬の肉はひどく柔らかかった。




* * *

ほのぼのを目指して書いたのですが、ちょっと違うかな。

久しぶりに巣山を書けたからまぁいいのだ。

やはり彼はかっこいいッス。

お話に出てくる歌詞は相対性理論の何とかって曲のものです。←曲名忘れた〜。

一度聴いたら、耳について離れないんですよね、らぶ ずっきゅん。



オマケ

 ↓


(栄口、頬っぺたにチョークの粉がついてるよ?)

(え、どこ?)

(ん、じっとして。ーー栄口の頬っぺたはやわらいかねぇ)

(み、水谷)

(それにスベスベだぁ)


阿部にウメボシ食らうまで、あと何秒?



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ