short・その他
□秋が来て君は眠る
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だって ほっとけないだろう。
金木犀の木の下で、
泣いてるお前を見つけたら。
お前が誰を想っていても、
俺が誰のものでも、
抱きしめずにいられなかったんだ。
甘くむせかえるような花の香は、
未熟な俺たちを惑わせる。
「栄口?どうしたんだ?」
金木犀の木の下で、立ち尽くしている栄口のもとへ駆け寄った。
「泉……」
何でもないって、笑おうとして笑いきれずにくしゃりと顔を歪ませた栄口は、透明な涙一つ……本当に真珠みたいな涙を一粒だけこぼして、拳で顔を覆った。
初秋の夕暮れ。
雨に濡れた金木犀と
泣いている栄口。
ーーー泣いている、栄口。
あいつ、栄口を一人で泣かせて……。
なにやってんだよ。
ギリっと奥歯を噛み締めると栄口が顔を上げた。
「違うんだ、泉。ちょっと淋しくなっただけ」
赤い目をして、必死に訴えてくる。
大きく目を見張っているのは涙をこぼさないためなんだろう。
「淋しくなったのはあいつのせいだろ」
「違う。水谷は悪くないんだ……」
堪えきれず溢れる涙を人差し指で拭ってやる。
「泣くな」
俺が水谷を責めることでお前がツラくなるなら、何も言わねぇよ。
「泣かないでくれ、栄口」
でないと、俺はお前をほっておけなくなるだろう。
ゆっくりと瞬きして、俺を見つめる……深い哀しみに染まった瞳。
雨に濡れた金木犀が、甘く強い香りを放つ。
花の香に酔ったように、引き寄せられた唇は冷たかった。
このまま口づけていれば、二人の間に熱が生まれるのか?
例え、
恋じゃなくてもーー。
背中に回された栄口の手が求めるものを、俺は与えてやれるのか。
ーーそれは浜田が俺に与えてくれたものだった。