short・その他


□頑張ったんだな
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部誌を書きながらチラリと横目で見た栄口は、部室の鍵を人差し指に引っかけて、ぼんやりと頬杖ついてた。

はふ…と気だるげな吐息をつかれてドキンとする。

ちょっと赤くなってる目に、俺が泣かせちまったときのことを思い出して、ああ、栄口とヤりてーって強烈に思う。


だってさ、いつから栄口とシてないんだ?

毎日ヤったって、全然足りねーくらいなのに。

栄口の体のこと考えたらそんなのムリだって分かってけど……。

先週も今週もチャンスがなくって、俺はずっと栄口の肌に触れたくて……、その体の奥深くに沈み込みたくって、たまんなかった。


栄口を感じて、栄口に俺を感じて欲しくて。









「たじま……、もっと…」


いっつもしっかりしている栄口が、舌足らずに甘えてくる。

欲張りな粘膜のうごめき……。

ねだるように揺れる、日に焼けてない白い腰。




……ヤバい。

よみがえる記憶に下半身が反応しちまった。

せっかく部室に二人きりなのに、手ぇ出せないってのはなー。

仕方ないよな、栄口がなー。



俺は手にしてたペンを机に転がすと栄口に問いかけた。


「疲れてんの?」

「え……」

「栄口、疲れてる?」


こっちを向いた栄口の目の下にうっすらと隈ができてる。

「あー…」って言って、斜め上に視線を逃がした栄口が、ふっと力を抜いて俺を見た。

やわらかい茶色の瞳はガラス玉みたいにキレイで、気を抜いたら吸い込まれてちまうんじゃねーのって思うことがある。


「うん。……疲れてる、かな。けっこう」


眉を下げて、でも、穏やかに笑って答える栄口。


「っしゃー……!」

「?」


胸の前で小さく拳を握る俺にキョトン、と目をおっきくして首を傾げてる。


それ、すっげぇ、カワイーぞ、栄口。


「なんで喜んでんの?俺、疲れてるって言ったんだよ?」


不思議そうに訊いてくる栄口に、俺はニカって笑って答える。

(後で栄口が「"得意満面"ってああいう顔のことだよね」と言っていた)


「だってさ、栄口、他の奴らには疲れてても『疲れてる』なんて言わないで『大丈夫』って答えんだろ」


それが素直に「疲れてる」って言った。しかも「けっこう」って!

これってさ、俺にだけ弱ったとこを見せてくれてるみたいで、すっげぇ嬉しい。なんつーの、こいつには弱味を見せても大丈夫、つって、信用されてるみたいな。

別に疲れてるのが弱味になるなんて俺は思わねーけど、栄口は人当たり良くて誰にでも親切なくせに、自分のことは全部自分でやろうとして、人に助けを求めたり、弱音を吐いたりするのを良しとしないとこがあっから。

それを越えて、俺に――たぶんきっと、俺だけに「疲れてる」って言ってくれたのは、すっげぇ意味あることなんだ。



上手く言葉にできたか分かんねーけど、そういうことを俺なりに伝えると、栄口はほんのり頬を染めた。


「田島の言うとおりかも。俺…、田島にだったら、遠慮したり、気ィ使ったりしないで、自分に正直になってもいい気がして……。うん、『疲れてる』って言えて、楽になった気がする。……ありがと、田島」


栄口がにっこりと笑って、ふわっと空気が優しくなる。胸に広がる温かいもの。


栄口がすっげぇ好きだ。大事にしてやりてぇ。


「疲れてんのは栄口が一生懸命頑張ったからだろ?いっくらでも言えよ、『疲れた〜』って」


俺は受け止めてやっからさ。


「ふふ、田島がいてくれたら力強いね。疲れててもいいんだって思えるよ」


うーん、と伸びをして「好きな人からもらうパワーってすごいね。なんか元気出てきた」、なんてさらりと言われて、ガマンの限界がきた。


ぎゅって抱きしめて、めちゃくちゃキスしてぇ。


手を伸ばして栄口を抱きよせる。


驚いて見開かれる茶色の瞳に写る、余裕のない俺の顔。





 
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