short・その他
□頑張ったんだな
1ページ/3ページ
部誌を書きながらチラリと横目で見た栄口は、部室の鍵を人差し指に引っかけて、ぼんやりと頬杖ついてた。
はふ…と気だるげな吐息をつかれてドキンとする。
ちょっと赤くなってる目に、俺が泣かせちまったときのことを思い出して、ああ、栄口とヤりてーって強烈に思う。
だってさ、いつから栄口とシてないんだ?
毎日ヤったって、全然足りねーくらいなのに。
栄口の体のこと考えたらそんなのムリだって分かってけど……。
先週も今週もチャンスがなくって、俺はずっと栄口の肌に触れたくて……、その体の奥深くに沈み込みたくって、たまんなかった。
栄口を感じて、栄口に俺を感じて欲しくて。
「たじま……、もっと…」
いっつもしっかりしている栄口が、舌足らずに甘えてくる。
欲張りな粘膜のうごめき……。
ねだるように揺れる、日に焼けてない白い腰。
……ヤバい。
よみがえる記憶に下半身が反応しちまった。
せっかく部室に二人きりなのに、手ぇ出せないってのはなー。
仕方ないよな、栄口がなー。
俺は手にしてたペンを机に転がすと栄口に問いかけた。
「疲れてんの?」
「え……」
「栄口、疲れてる?」
こっちを向いた栄口の目の下にうっすらと隈ができてる。
「あー…」って言って、斜め上に視線を逃がした栄口が、ふっと力を抜いて俺を見た。
やわらかい茶色の瞳はガラス玉みたいにキレイで、気を抜いたら吸い込まれてちまうんじゃねーのって思うことがある。
「うん。……疲れてる、かな。けっこう」
眉を下げて、でも、穏やかに笑って答える栄口。
「っしゃー……!」
「?」
胸の前で小さく拳を握る俺にキョトン、と目をおっきくして首を傾げてる。
それ、すっげぇ、カワイーぞ、栄口。
「なんで喜んでんの?俺、疲れてるって言ったんだよ?」
不思議そうに訊いてくる栄口に、俺はニカって笑って答える。
(後で栄口が「"得意満面"ってああいう顔のことだよね」と言っていた)
「だってさ、栄口、他の奴らには疲れてても『疲れてる』なんて言わないで『大丈夫』って答えんだろ」
それが素直に「疲れてる」って言った。しかも「けっこう」って!
これってさ、俺にだけ弱ったとこを見せてくれてるみたいで、すっげぇ嬉しい。なんつーの、こいつには弱味を見せても大丈夫、つって、信用されてるみたいな。
別に疲れてるのが弱味になるなんて俺は思わねーけど、栄口は人当たり良くて誰にでも親切なくせに、自分のことは全部自分でやろうとして、人に助けを求めたり、弱音を吐いたりするのを良しとしないとこがあっから。
それを越えて、俺に――たぶんきっと、俺だけに「疲れてる」って言ってくれたのは、すっげぇ意味あることなんだ。
上手く言葉にできたか分かんねーけど、そういうことを俺なりに伝えると、栄口はほんのり頬を染めた。
「田島の言うとおりかも。俺…、田島にだったら、遠慮したり、気ィ使ったりしないで、自分に正直になってもいい気がして……。うん、『疲れてる』って言えて、楽になった気がする。……ありがと、田島」
栄口がにっこりと笑って、ふわっと空気が優しくなる。胸に広がる温かいもの。
栄口がすっげぇ好きだ。大事にしてやりてぇ。
「疲れてんのは栄口が一生懸命頑張ったからだろ?いっくらでも言えよ、『疲れた〜』って」
俺は受け止めてやっからさ。
「ふふ、田島がいてくれたら力強いね。疲れててもいいんだって思えるよ」
うーん、と伸びをして「好きな人からもらうパワーってすごいね。なんか元気出てきた」、なんてさらりと言われて、ガマンの限界がきた。
ぎゅって抱きしめて、めちゃくちゃキスしてぇ。
手を伸ばして栄口を抱きよせる。
驚いて見開かれる茶色の瞳に写る、余裕のない俺の顔。