short・その他


□夢見桜
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「水谷って俺のこと好きだよね?」





春休みもあと一日で終わり、という日の部活の後。

駐輪場の桜の樹の下に佇む栄口を見つけて駆け寄った。

いつもまにか部室から姿が消えてて、がっかりしてたんだ。

午後の練習はないし、お花見気分で遠回りして桜並木から帰ろうよ、って誘ったら、「いいよ」って笑ってくれて。

ゆっくりゆっくりピンク色の綿菓子みたいな花の下を歩いたのに、すぐに並木の終わりに来て。

もっと一緒にいたくて、


「栄口ぃ、古典の宿題教えて。俺、全然手ぇつけてないんだ〜」と泣きつけば、いつもどおり穏やか笑って彼は俺の心臓を撃ち抜いた。


「ていうか、水谷って俺のこと好きだよね?」

「っ、……そそっそおんなことな……」

……いこともない……けどっ。


思いきり焦る俺を尻目に「そっか、違ったのか……残念」とか呟いてる栄口に


「ななな、んで、そっな、きゅうにっ」


心臓ばくばくさせながら聞くと、


「んー、俺も数学の宿題に手をつけてなくて、理由…おんなじかな、と思っただけ」


照れくさそうに人指し指で頬を掻いた。


俺が……、

古典の宿題に手をつけてないのは、

栄口と一緒にいられる口実が欲しかったからで……。

それは、俺が栄口のことが好きだからで……。

おんなじ理由ってーー。

でも、そんなまさかーー、


「数学なら、阿部のが得意だよ……?」


思い当たった結論が信じられなくて、おずおずと口にした言葉に栄口の笑顔が消えて、

あ、間違えた…!って思ったときには、また笑顔に戻ったけど、なんだか栄口が淋しげに見えた。


「あの、栄口……、俺は、ね」

「ごめん、水谷。忘れて?」


にこりと笑って言われても、そんなの忘れられる訳ないよ。


「なんか、桜を見てたら、今言っておかないといけない気がして。……でも、言わなくてもいいことかも知れなかった」

「い、言ってよ、栄口」



俺、分からないよ。

栄口みたいに、人の心を読むの上手じゃないんだ。

言葉にして伝えてよ。



一生懸命見つめていると、敵わないなぁ、水谷にはって苦笑して、



「俺は水谷が好きだよ」


静かに告げられた言葉は、風にふわりと舞う薄紅の花びらのように優しく、心の奥深くにそっと着地した。


「俺も…、俺も栄口が好き……!」


いっつもいっつも、栄口にまとわりついて好き好き言ってたけど、こんなにありったけの思いを込めて言ったことはない。

なのに、びっくりしたみたいに目を見開いた栄口に「ホントに?」って、言われてちょっと傷ついた。


「な、なんだよ。さっきは水谷って俺のこと好きだよねって言ってたのに」


涙目で訴えると、一歩近づいて「ごめんね」って首を傾けた。


「俺のこと好きなのかなって思うときと、阿部が好きなのかって思うときがあって」

「は?阿部ぇ?」


それだけはこれっぽっちもあり得ない。

むしろ、それは……


「栄口こそ、阿部が好きなんじゃなかったの!?」

「……なんで俺があんな可愛くないヤツ好きになんなきゃならないんだよ」

「え、いや、俺も別に可愛くはないし……」


眉を潜めた栄口にへどもどと答えると「可愛いよ、水谷は」ってふわり微笑んで、指先が前髪に伸ばされた。

うわわ、なに…って、ぎゅって目を瞑った俺に「桜の花びらがついてる」って、やわらかい声がした。

優しく前髪に触れて離れていく指先。

もっと触れていてほしいような……。


「ほら、取れたよ」

「あ、ありがと」


目を開けると間近にあった栄口の綺麗な茶色の瞳にドキンとした。


も、俺の心臓もたないかも知れない。


「ふふ、水谷、これから俺んち来る?古典、教えてあげるよ」

「っ、うん!」




晴れ渡る4月の空と満開の桜の下で夢のように幸せだった。




でも、それだけで終わりじゃなくて、





だあれもいない家で、古典と栄口の唇の味を教わって、





4月7日は特別な日になった。






* * *

栄水の日のお話でした!

栄水になってる?

よく考えたらうちは水栄中心、栄口受けサイトなのに、真逆なものにチャレンジしたな。。。


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