short・水栄


□紫陽花の君
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朝練を終えて校舎に向かう途中、栄口が足を止めた。


「だんだん鮮やかになっていくね」


その言葉に視線を辿ると朝露に濡れた紫陽花が淡く色づいていた。


「ほんとだ。この間まで黄緑色だったのに」

「アルカリ性なのかなここの土。ピンク系のばっかだよな」


そう言った栄口は少し残念そうで。


「水色のが好きなの?」

「水色は寂しい感じがするからあまり……。青紫のが好きかなぁ。……母さんが言ってたんだけど、俺が生まれたとき病院の窓から見た青紫の紫陽花がすっごい綺麗だったんだって」


ちょっと遠い…でも優しい目をして笑う栄口。


「けど、俺ンちの辺りじゃ青紫の紫陽花って咲いてなくて。小さい頃は探険だって言って、雨の中を長靴履いて傘さして、青紫の紫陽花を探して歩いたよ」


きっと優しい栄口はお母さんに青紫の紫陽花をプレゼントしてあげたくて、雨の中、歩き回ったんだろうな。

栄口が生まれた日に満開だった青紫の紫陽花。栄口のお母さんは大好きだったに違いない。だから栄口も青紫のが好きなんだ。


「でも、なかなか見つけられなくてさー、かわりにレインコートのポケットにカタツムリいっぱい捕って帰ったら怒られた」

「うわ、それはひどい。って、俺もダンゴムシをポケットに詰めて持って帰ったことあるな」

「あはは、子どものやることだからね」


ピンクの紫陽花も華やかで綺麗だろうねって言って、もう行こうって栄口が歩きだす。


「あ、ねぇ!今度、探険に行こうか」

「へ?」

「青紫の紫陽花、探しに行こう。二人で」

「えぇ〜」

「次の日曜日、練習ないし。栄口の誕生日に近いし。俺も見たい!栄口の生まれた日に咲いてたみたいな青紫の紫陽花」

「……うん。一緒に探そうか」


ふわりと笑う栄口。

どうしてそんな花ひらくみたいに綺麗に笑うんだろう。


「雨が降ったらいいなぁ」


俺もふにゃ〜って笑い返す。


「歩くんだから晴れのほうがよくない?」


不思議そうに首を傾ける栄口。


「雨だったら相合傘できるじゃん」


そう答えるとほっぺたが紫陽花と同じ淡いピンク色になった。




君が生まれた季節を彩る花。


君の望む色の花を捧げるから、ずっと一緒にいて笑っいて。
 
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