short・水栄


□Sweet lovers5
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蜻蛉柄をあしらった鶯色の浴衣に辛子色の帯をキリリと締めた栄口と、神社へと続く裏道を手を繋いで歩く。


暮れていく空の下、夏草の匂いと君の横顔。




「あー、もう下駄が歩きにくい!鼻緒が擦れて足痛いし。浴衣なんて着るんじゃなかった」


膨らませた頬はきっと照れ隠し。


「えぇ〜、よく似合ってるのに。栄口、かっこよくて可愛いくて、俺、どうにかなっちゃいそうだよ」



マジ惚れ直す。

浴衣最高!

日本に生まれて良かった。


「ばか」って道端の小石を蹴飛ばす栄口。

耳の縁が赤く染まって美味しそう。

リンゴ飴よりそっちを食べたい。



「浴衣……水谷が…好きかと思って…着せてもらった……」



好きだよ、浴衣。

なんて言うの?

風情があっていいよね。



でも、それ以上に、


浴衣着て、はにかんで笑う君が好き。



「俺のために着てくれたんだ?」



恥ずかしげにコクリと頷く栄口。


それを見て、俺のガマンは尽きた。



繋いでいた手を離して腰を抱き寄せる。

小さな顎に手を掛けて、口づける。



「……ん…っ」



鼻にかかった甘い声に拍車がかかって止まらない。



どうしよう。

栄口が大好きだ。



「は…ふっ」



一生懸命応えてくれる舌が嬉しくて、栄口が愛しくて、抱き締める腕に力を込めて、よりいっそう、熱く激しく舌を絡ませる。



「……っ」



弱々しく肩を押されて、我に返る。

俺を見つめる栄口の瞳には薄く涙の幕が張られて。

お互いの唾液で濡れた唇はいつもより紅みをまして。



「ごめん、栄口。花火は来年見よ?」



まだキスの余韻でとろんとしている栄口の手首掴んで、花火が打ち上がる神社とは逆方向に歩き出す。


「え…、水谷?」


引っ張られて戸惑いながらついて来る栄口。



ごめんね、栄口。

せっかく、浴衣着てくれたのに。



「俺ンち、全員花火見に行くって言ってたから、もう誰もいないハズなんだ」

「うん?なんか忘れたの?」


キョトンと尋ねる君の傾げた首に、早く口づけを落としたい。



「ね、帯…解いてもいい?」



それで察した栄口が「……いいよ。もう着崩れちゃったし」って、許してくれたから、今年の夏祭りはベッドの上で花火の音だけ聴いた。






来年は絶対花火見ようね、って言ったら「もう俺、浴衣は着ないけどね」って、ぐちゃぐちゃになった浴衣を見て栄口がため息をついた。








………………………


memo 妄想のつもりが長くなってしまった。

浴衣着てはにかんで笑う栄口くん最高に可愛いと思う。 


『呉竹の神さま見ていた夏の夜 帯解く指が朱色に染まる』

っていう自作の短歌(?)が元ネタです。 
 


 

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