short・水栄


□Sweet lovers6
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真夏に食べるアイスクリームほど美味しいものはないと思う。


好きな子と二人、木陰のベンチに座って食べるなら、なおさら。


人気のない神社の境内は風通しもよくて、気持ちいい。


いつもはうるさいとしか思わない蝉時雨だって、気にならない。


俺が気になるのは栄口のことだけだから。








「栄口〜、早く食べないと溶けちゃうよー」

「急いで食べたらお腹痛くなっちゃうんだよ、俺」



それはそうかも知れないけど、……棒つきアイスをゆっくりゆっくり舐める、栄口の舌がやらしいんだって。

パクって食べてくれたらいいのに、歯を立てないでずーっと舌先で舐めてるんだもん。

ときどき、棒を上下に動かして、アイスを口に出し入れするのも、目の毒としか言いようがない。


………やらしいのは俺の頭ン中だってのは分かってるけどさ。


なんでジャージー牛乳アイスバーなんて選ぶんだよ、栄口。


あ、垂れちゃった、なんて手首を伝う白い液体を舌で舐め取らないでよ。



「水谷?水谷のアイスも溶けてるよ」


俺の視線に気づいた栄口が怪訝な顔をする。


「ごっ、ごめん」


別に謝らなくっても、って言う栄口に、疚しさを隠すように俺はガリガリくんを超高速で食べる。





あ、ヤバ……





「あぅ、い、イタッ、うわぁー」



キーンってこめかみを襲った激しい痛みに、俺は頭を抱えて悶絶した。



「み、水谷?大丈夫!?」

「痛いよぉ。頭が割れる〜。うぇ〜」



神さま、これは境内でやらしい想像してた罰ですか〜ってくらい痛い。



「だ、だって、栄口が好きなんだもんっ」

「は?」

「やらしいことだって考えちゃうよ〜」

「おまっ、なに言ってンだよ!?」

「頭痛いよぉ〜、死んじゃうーー。栄口、助けてぇ」



ひーん、って泣きついた俺に「あぁ、もうっ」って栄口の声。




続いて唇に唇が押しつけられる。



ボトッて、俺の手から滑り落ちたガリガリくんが地面に落下した。



短いようで長い、長いようで短い時間が過ぎて、離れていく唇…。



「痛いの治った?」



治ったもなにも、痛いのなんてぶっ飛んだよ。



「さ、栄口、今の…っ」

「アイスクリーム頭痛」

「へ?」

「アイスクリーム頭痛、って言うんだって。冷たい物を急に食べたときに頭がキーンってなること」



いや、そうじゃなくて「栄口、今のキスしてくれたんだよね?」って、聞きたかったんだけど……。


「30秒ぐらいで治るらしいよ、大抵。男子中学生に多いんだって」




うっ、俺は中坊並みかよ。



あんなに慌てて食べなくても、って残りのアイスをゆっくりとまた舐め始める栄口。


「水谷……やらしいこと…考えてたんだ」


横目で見られて俺は小さくなった。痛さのあまり余計なことを口走ってしまったことを今さらながら後悔する。


「あ、あのね、栄口……」

「それ、捨てて来なよ」


……弁解を聞く耳はないらしい。


栄口の指さした先には落としてしまったガリガリくん。

俺は砂まみれになったガリガリくん拾いあげると、近くのゴミ箱に捨てた。

はぁーって、ため息をついて栄口の隣に座り直す。


栄口からキスしてくれるなんてめったにないことなのに、はぐらかされるし、何を想像してたのかバレてる気もするし、なんか俺、カッコ悪い……。


俺のため息をどう受け取ったのか「食べる?」って、アイスが差し出された。


最後の一口を惜しげもなく、俺にくれようとする優しい栄口。



……変な目で見てごめんなさい。



「栄口が食べなよ」

「そう?」



最後の一口は白い歯にかじり取られて、栄口の口の中に消えていった……





……と思ったら





「ん…」




栄口の舌の上に載せられて、もう一度、俺に差し出された。



茶色の瞳が「これでも食べないの?」って言ってる。






ーー食べるに決まってるよ。







赤い舌の上で溶けだしている白い塊に舌を伸ばす。




「ふっ、ぁ…」




二人の舌の間で溶けてなくなったアイスより、何倍も甘い栄口の舌を思う存分味わう。



「んん、…ったに」



息が苦しくなった栄口に胸を叩かれて、仕方なく唇を解放する。




「ふはっ、はぁっ、は…」




必死で肺に空気を取り込む栄口の、紅潮した頬と涙を溜めた目がたまんない。



「アイスも栄口の舌も冷たくて美味しかったぁ」



ぎゅっと抱き締めて、耳に唇を寄せると、ふるっと躯を震わせた。



「どうしたの、栄口?今日は積極的だね」


俺は嬉しいけどさ。




「俺も……やらしいこと考えてた、から……」



耳まで赤くして恥ずかしそうに言う栄口に、俺の喉がゴクリと鳴った。






理性がアイスクリームみたいに溶けていく……。





 
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