short・水栄


□秋からもそばにいて
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「今日も暑いねぇ」


部活の休憩時間、額の汗をタオルで拭きながら隣の栄口に話しかけたら「でも、もう秋だね」って、あの柔らかくて優しい声で言われた。


ん、ん、んーー?


今日の最高気温は31℃って、朝のニュースで言ってたような?


昨日は、一緒にかき氷食べたし。


蝉の声は今もうるさいし。


「まだまだ夏じゃない?どのへんがもう秋なの?」って聞いた俺に、「んとね」って、頬に人指し指を当てて言葉を選ぶ栄口。


可愛い……。


栄口を見てると自然と口元が緩んじゃうんだよね。


「窓開けっぱなしで寝てたら、朝方、肌寒かったり……」

「ダメだよ、栄口。窓閉めて寝ないと、夜這いでもされたらどーすんのさ」

「……お前、古典苦手なくせに、なんでそんな単語は知ってるんだよ……」

「えぇ〜、ちょっとあこがれのシチュエーションだから?そっかぁ、栄口の部屋、窓開いてんのかぁ」


暗闇の中忍び込んで、手探りで進むアレやコレを想像してむふふと笑う。

いやいや、やっぱり栄口のあんな顔やそんな顔が見れないのは惜しい気がする。

灯りはつけるか……。

でも、かえって声だけが聞こえるってのもそそるかも。栄口、ヤバイくらいイイ声で鳴くからなぁ。


「……俺、今日から窓閉めて寝るよ」


栄口の声が一段低くなった気がする……。


もしかして、だだ漏れだった?


「えぇと、ほかにはどんなとき、もう秋だなぁって思うの?…うわっ」


上目使いでご機嫌をとるように聞いた瞬間、ドカっと背中に衝撃を受けた。


「一年中頭が春な米なんかに、微妙な季節の移り変わりが分かるわけないだろ、栄口」

「痛い!泉、蹴らないでよ」


俺の抗議を無視して「行くぞ栄口。向こうで俺が続きを聞いてやる」って、泉が栄口を連れて行ってしまった。


俺の心の中を冷たい秋風が吹き抜ける。



「栄口〜〜、戻って来てよ〜」



俺の頭が万年春なのは、栄口がそばにいるからなのにぃ。


春も夏も秋も冬も、栄口がいないと意味ないよ〜。








…………………




水谷がおバカ過ぎて秋の気配を感じないお話になったので、泉にバトンタッチしてもらいました。 


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