short・水栄
□Sweet lovers7
1ページ/4ページ
昨夜から降り続く雨に大雨警報発令。
放課後の部活は禁止になった。
"生徒は速やかに下校しなさい"
校内放送での呼びかけを無視して、俺は栄口を社会科資料室に呼び出した。
人気のない校舎に響く雨音。
壁に掛けられたままの古い世界地図をボンヤリと眺めていたら、栄口がやって来た。
梅雨冷えの季節、半袖のシャツの肩を抱き寄せる。ーー栄口の体はひんやりしてた。
「水谷…?見せたいものって何?」
戸惑いながら、黙って俺に抱かれる栄口。
うん…、あのね、と答えながら、何を見せようかって考える。
だってただ俺は栄口と二人になりたかっただけだから。
見せたいものがあるなんて口実。
せっかく部活がなくなって早く帰れることになっても、俺の家には雨の日には出掛けたがらないきよえがいるし、栄口ンちには俺らと同じく学校から早めに帰された弟がいるに違いないから。
少しでも長く栄口と二人で居たくて、俺は薄い体を抱き締める。
流れてくる栄口の温もり。トクトクと心臓の音が心地良い。
「水谷?早く帰らないと、雨、スゴいよ?」
気遣わしげな優しい声。
窓を叩きつける雨に外に目をやると、真っ白な紫陽花が雨に打たれて揺れていた。
「見て、栄口。あの紫陽花、まだ白いまんまだ」
日当たりのせいなのかな。色とりどりの紫陽花の中で、一群の花だけが、何色にも染まらずどこまでも白いままだった。
「水谷の見せたいものって、あの白い紫陽花のこと?」
ゆっくりと丸い頭を中庭に巡らせた栄口に「うん」と答える。
(見せたいものなんてなんでもいい。だって俺が見てたいのは栄口なんだ)
「珍しくない?白い紫陽花なんて」
「あれは……、たぶんそういう品種なんじゃないかな。ーー花びらの縁がフリルみたいになってる、白い紫陽花を花屋さんで見たことあるよ」
「そうなんだ……」
「同じ品種かは分からないけど……、白い紫陽花ってあるみたいだよ」
なぁんだ、せっかく栄口に教えてあげようと思ったのにーーって俺はガッカリした顔をして見せる。
抱き締められるままだった栄口の腕が背中に回って、ぎゅってしてくれる。
優しい優しい栄口。
「白い紫陽花も綺麗だよね。俺、好きだよ。学校に咲いてるとは思わなかった。ーー見せてくれてありがとう、水谷」
微笑んだ、栄口こそ真っ白な花みたいに綺麗だよ。
ーーーーー大好き。
でもね、
無垢な笑顔を見たい日ばかりじゃないんだ。
君の笑った顔、とても好きだけどね。
.