short・水栄
□君と見る夢
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深い森の中を一人で歩いていた。
うっそうと繁る大きな木の枝が太陽の光を遮って、森はとても暗くて寒かった。
「栄口……どこ?」
ずっと手を繋いで歩いていた筈なのに気がつけば隣に栄口の姿がなくて。
心細くて淋しくて、泣きたい気持ちになったけど、きっともっと栄口のほうが不安に違いない。
「どこにいても見つけるから」
だから待ってて。
行く道が正しいのかなんて分からないけど、俺はとにかく歩き続けた。
――と、突然目の前が開け、足下から眩い光に包まれた。
「なに…?」
眼下には小さな泉。
そこから一人の長い黒髪の女性が現れた。
おっきな胸に濡れた服が張り付いて正直目のやり場に困ったけど、次の瞬間告げられた言葉にそれどころじゃなくなった。
「水谷くんが探している栄口くんは清楚で恥ずかしがりやの栄口くん?それとも、淫乱で虐められたがりやの栄口くん?」
「ど、どっちも。どっちの栄口もです」
「困ったわね。どちらか一方しか返してあげられないんだ」
「えぇ〜、そんなぁ。両方とも好きなのにぃ」
どっちの栄口も可愛くて俺は大好きだよ。
「ぐずぐず言ってないで、選びなさい!」
「――じゃあ清楚な方で」
「あら、水谷のくせにピュアなのね?」
"くせに"ってのはなんだよ。
「恥ずかしがる栄口をまた一から調教するのも愉しいかな、と思って」
――って、夢を元日に見たんけどさぁ。
初夢イコール正夢って本当だと思う?
これって何かの暗示なのかなぁ。
ちょ、待って、栄口!電話切らないで!
三日の午後には俺だけ一足早く帰るから、とりあえず一緒の布団で寝てみない?
* * *
2013年、1月の拍手お礼文でした。
夢オチというのが百花らしいですよね。
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