short・水栄


□Sweet lovers2
1ページ/2ページ

部活帰りのコンビニであれこれ悩んで結局定番のお菓子を買って、雑誌を立ち読みしてる阿部とちょっとだけ話をして、店の外で待ってる水谷の隣に急いだ。


「お待たせっ。あ、パピコ食べてんだ。生チョココーヒー味、美味しいよね」

「ははえふちもたへる?」

「口にくわえたまま喋んなよ」

「栄口も食べる?」


握っていたパピコの半分を渡される。


「いいの?」

「うん。これねぇ、ちょうどいい感じに溶けてるハズだから」

「?」

「栄口、溶かけのパピコ好きって言ってよね?これなら、冷たすぎなくてお腹にも優しいよ」


渡されたパピコは溶けかけのシェーク状になっていて……。

ん?

でも水谷はパピコをガリガリ口にくわえて噛んでいた。

もしかして……


「水谷。手、見せて!」


後ろに隠そうとした手をとる。


「冷たっ」


水谷の手は真っ赤になってて、夏だってのに氷みたいに冷たかった。


ずっと、握りしめて……体温で溶かしてくれてたんだ。

俺の何気なく言った一言のために。


「手、痛いだろ」

「ううん、ひんやりして気持ちいいよ」


ほらって、頬にあてられた手は冷たいけど、誰よりも温かく俺を包んでくれる優しさに満ちている。


「ん、気持ちい」


じわっと湧いてきた涙に気づかれないように、目を閉じて呟くと

「さ、栄口、早く食べなよ。いい溶けかげんだよ」って、焦ったみたいな水谷の声。


俺は口をすぼめて半固体(半液状?)になったパピコを吸い上げた。

喉に落ちていくドロドロの冷たい固まりに思わず笑みがこぼれる。


「おいし……」

「やったぁ。良かったぁ」


水谷のふわふわした嬉しそうな声に、こっちまでふわんと楽しくなる。


「いい溶けかげんってのも変な言い方だけど、いい溶けかげんだよ」

「栄口が言ってたんだよ。こないだ、わざわざ室温に戻したチョコ食べながら」

「あー、やわらかく溶けたチョコって、濃厚に甘く感じて好きなんだよね。……って、水谷、顔、赤くなってるよ?」

「……栄口の口ん中で溶けたチョコ、思い出しちゃった。確かに…やわらかくて……濃厚に甘かった…よ」


ーーこの間、まだ誰も帰っていない俺ンちのリビングで二人でDVD観ながらお菓子食べてるとき、「チョコ食べないの?溶けちゃうよ」って水谷に言われて。「溶けかけが好きなんだ」って答えて。

ちょっと時間をおいてからチョコを口にして「いい溶けかげん」って言った俺に水谷が「どれどれ」ってキスしてきた。

あのときの、お互いの舌に挟まれて溶けていったチョコレートはひどく甘かった。

俺たちはもっともっとって熱い舌を絡ませて、舐めあって。

溢れる唾液にチョコの甘さが薄くなって消えても、まだ唇を離さずにいた。

水谷があのときの、キスしながら食べたチョコのことを言ってるんだ。


「俺……チロルチョコ買ったけど…食べる?――えっと……やわらかく…溶かして……」


恥ずかしかったけど、なんとか誘う台詞を口にする。


(だって水谷の手、すごく冷たくなっていた。手が痛くても我慢して……一生懸命溶かしてくれたんだ)


「栄口が溶かして美味しくしてくれるの?」


艶を帯びた水谷の声。キャラメルみたいな栗色の瞳に見つめられて頬が熱い。


「……う…ん。その…パピコのお礼」


ドキドキしてる俺の耳元に唇を寄せて


「早く食べさせて」


って言ってきた水谷の息が熱くて、俺の耳こそ溶けてしまうんじゃないかと思った。

そして、別れ道の路地裏で重なった俺と水谷の影は、長いこと離れずにいたのだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ