short・水栄
□Sweet lovers2
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部活帰りのコンビニであれこれ悩んで結局定番のお菓子を買って、雑誌を立ち読みしてる阿部とちょっとだけ話をして、店の外で待ってる水谷の隣に急いだ。
「お待たせっ。あ、パピコ食べてんだ。生チョココーヒー味、美味しいよね」
「ははえふちもたへる?」
「口にくわえたまま喋んなよ」
「栄口も食べる?」
握っていたパピコの半分を渡される。
「いいの?」
「うん。これねぇ、ちょうどいい感じに溶けてるハズだから」
「?」
「栄口、溶かけのパピコ好きって言ってよね?これなら、冷たすぎなくてお腹にも優しいよ」
渡されたパピコは溶けかけのシェーク状になっていて……。
ん?
でも水谷はパピコをガリガリ口にくわえて噛んでいた。
もしかして……
「水谷。手、見せて!」
後ろに隠そうとした手をとる。
「冷たっ」
水谷の手は真っ赤になってて、夏だってのに氷みたいに冷たかった。
ずっと、握りしめて……体温で溶かしてくれてたんだ。
俺の何気なく言った一言のために。
「手、痛いだろ」
「ううん、ひんやりして気持ちいいよ」
ほらって、頬にあてられた手は冷たいけど、誰よりも温かく俺を包んでくれる優しさに満ちている。
「ん、気持ちい」
じわっと湧いてきた涙に気づかれないように、目を閉じて呟くと
「さ、栄口、早く食べなよ。いい溶けかげんだよ」って、焦ったみたいな水谷の声。
俺は口をすぼめて半固体(半液状?)になったパピコを吸い上げた。
喉に落ちていくドロドロの冷たい固まりに思わず笑みがこぼれる。
「おいし……」
「やったぁ。良かったぁ」
水谷のふわふわした嬉しそうな声に、こっちまでふわんと楽しくなる。
「いい溶けかげんってのも変な言い方だけど、いい溶けかげんだよ」
「栄口が言ってたんだよ。こないだ、わざわざ室温に戻したチョコ食べながら」
「あー、やわらかく溶けたチョコって、濃厚に甘く感じて好きなんだよね。……って、水谷、顔、赤くなってるよ?」
「……栄口の口ん中で溶けたチョコ、思い出しちゃった。確かに…やわらかくて……濃厚に甘かった…よ」
ーーこの間、まだ誰も帰っていない俺ンちのリビングで二人でDVD観ながらお菓子食べてるとき、「チョコ食べないの?溶けちゃうよ」って水谷に言われて。「溶けかけが好きなんだ」って答えて。
ちょっと時間をおいてからチョコを口にして「いい溶けかげん」って言った俺に水谷が「どれどれ」ってキスしてきた。
あのときの、お互いの舌に挟まれて溶けていったチョコレートはひどく甘かった。
俺たちはもっともっとって熱い舌を絡ませて、舐めあって。
溢れる唾液にチョコの甘さが薄くなって消えても、まだ唇を離さずにいた。
水谷があのときの、キスしながら食べたチョコのことを言ってるんだ。
「俺……チロルチョコ買ったけど…食べる?――えっと……やわらかく…溶かして……」
恥ずかしかったけど、なんとか誘う台詞を口にする。
(だって水谷の手、すごく冷たくなっていた。手が痛くても我慢して……一生懸命溶かしてくれたんだ)
「栄口が溶かして美味しくしてくれるの?」
艶を帯びた水谷の声。キャラメルみたいな栗色の瞳に見つめられて頬が熱い。
「……う…ん。その…パピコのお礼」
ドキドキしてる俺の耳元に唇を寄せて
「早く食べさせて」
って言ってきた水谷の息が熱くて、俺の耳こそ溶けてしまうんじゃないかと思った。
そして、別れ道の路地裏で重なった俺と水谷の影は、長いこと離れずにいたのだった。