long・水栄


□仮初めの恋人 1
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side:水谷

……

なんでだろう。
ときどき、君を泣かせたくなるんだ。

誰よりも、何よりも。
大切に守りたいと思っているのに。

涙をいっぱい溜めたあの目で、
俺だけを見て欲しくて。

頬を伝う涙を、
俺だけのものにしたくて。


ごめんね、栄口。



涙に濡れた瞳が綺麗過ぎるんだーー。


………



後ろから抱かれるのは嫌いなのは知っているけど。

今日は顔を見られなくてすむように、なかば無理やり獣の体位で抱いた。

四つん這いになってる羞恥のせいか、いつもより感じやすい躯を時間をかけてたっぷりと愛おしむ。

滑らかな白い背中一面に散った赤い所有印は暫く消えることはないだろう。

(そんなものつけたところで、栄口が完全に俺のものになるというわけでもないのにね)

「やぁっ…」

折れてしまいそうな細腰を容赦なく掴んで引き寄せる。

ヒクつく入り口に猛ったものを押し宛てて、


「挿れるよ」


欲に絡んだ声で囁けば、栄口はびくりと肩を揺らして、少しでも負担を減らそうと深く長く息を吐いた。

「ごめんね」と呟きゆっくりと腰を進める。

栄口の中は栄口そのままに、あたたかく柔らかい。


「ひあっ、くッ、っん、ん」


のけ反った背中の骨を辿るように舌で舐め上げれば、栄口は可愛いらしく哭いて俺を堪らなくさせる。


「み、ずたに…」


俺を呼ぶ高めの、掠れた声もイイ。

短い髪に隠されることなく、剥き出しになっている耳に舌を差し入れると、俺を受け入れている粘膜が誘うように蠢いた。


「みったに…っ」

「なに?」


唇をうなじに落として囁けば、ピクンと跳ねる躯。


「っあ、も、いい、から」

「なに?何が、もういいの?」


問いかけて、ペロリとうなじから耳裏まで舐め上げると栄口の中がきゅっと締まった。ああ、ホントに堪らないな。

さんざん指で慣らされて焦らされた挙げ句、挿入されたままでいる栄口はほうは堪ったもんじゃないんだろう、みずたに、みずたに、って必死に俺の名前を呼んでいる。


「動いて欲しいの?」


耳元で問えば、コクコクとうなずく栄口が可愛くてーー、




ーー苛めたくなる。



「俺を見て、ちゃんと言って」


首を回して俺を見上げる栄口の瞳は、涙で潤んでキラキラしてる。

その綺麗な目に俺はどんなふうに映っているんだろう。


「みずたにぃ……」


舌足らずな呼び声と無意識に揺れる腰に劣情は加速する。

だけど。

ダメだよ、そんなふうに誘惑しても。

今日は許してあげない。


「言って、栄口」


俺にどうして欲しいの?


「…う、動い……て」


言葉と共に零れ落ちる涙はやっぱり綺麗で。

独占欲と支配欲と庇護欲が同時に沸き上がってごちゃ混ぜになって、栄口をより深く激しく貫く。


「ひぁ、やぁっ、あああぁっ」


ギリギリまで引いて一気に奥まで突けば、栄口の腕から力が抜け上半身がガクリと崩れ落ちた。


「あ、あ、あ、あぁっ」

 
腰だけ上げた状態でシーツに頬を押し当てて、栄口の口から零れるのは、意味をなさない母音の羅列。

普段の姿からはかけ離れて、すごく淫らで可愛いくて理性が飛びそうになる。

興奮のまま栄口の好きな場所を栄口の好きな角度で執拗に攻め立てる。


「あぁっ、いい……っ、やぁっ」

「はっ、イイって言ったり、嫌って言ったり――めちゃくちゃだね」


惑乱の中でやがて快楽に酔い、ひっきりなしに喘ぐ栄口の口からは唾液が溢れてシーツに丸く染みを作っていく


「さかえぐち……」


荒い息と濡れたやらしい音に満ちたこの部屋で、ずっと二人で居られたらいいのに。

快楽に溺れて、何もかも分からなくなってしまえ。

俺から離れることなど考えもしないように。



栄口、栄口栄口。



大好きだよ。



もっともっと泣かせてもいい?


それでも、ずっとずっと好きでいてくれる?



「さかえぐち……」



閉じていた明るい茶色瞳がゆっくりと開かれる――。




澄んだ瞳が俺を見つめて、



優しく微笑んだ。
 

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