long・水栄
□仮初めの恋人 3
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side:栄口
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阿部とは受験の日まで話をしたことはなかったけど、シニアにいたこともあって顔はよく知ってた。
意志の強そうな目だな、
校内で見かけるたびに思った。
黙りこくって不機嫌そうに歩いてるときもあれば、友達と楽しげに話してるときもあった。
よく響く低い声。
自分の声が高めだから、いいなぁ、って思ってた。
あの声で「栄口」って呼ばれたら、どんなだろう。
強い意志を宿した、あの真っ黒な目に見つめられて、
「栄口」って、
俺の名を低く響かせて呼ばれたら――。
まさか恋に落ちるなんて、
そんなこと想像もしなかった。
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